何度目かになる『バビロン』を観て

こんにちは。
鴨井奨平です。

突然ですが、私は誕生日に「その時点で一番好きな映画を観る」ことにしています。
誕生日でしたので、私が一番好きな映画『バビロン』(デイミアン・チャゼル監督作品)を妻が仕事に行っている隙に観ました(私は休みでした)。妻はこの映画を別に好きではないので(妻は超ポジティブ人間なので、映画のキャラクターたちが苦悩している理由がよくわからないそうです。うらやましい)。

一方で、妻に限らず、『バビロン』を好きな人ってそこまで多くない印象です。私は(細々と)映画を監督したり、脚本を執筆したりしているので、映画関連の仲間も少なくないのですが、彼ら・彼女らの中で私ほどこの映画を評価している者はいません。多くの人が「(同じチャゼル監督作品の中では)『ラ・ラ・ランド』の方が好き」と言います。
もちろん私も『ラ・ラ・ランド』が大好きです。日本版Blu-rayの発売を待てずに北米版Blu-rayを買ってしまったほどです。
しかし私は、日本で一般公開されたチャゼル氏の監督作品の中では『バビロン』が一番優れていると思っています。
以下に、『バビロン』について記します(※存分にネタバレします)。



『バビロン』の最大の特徴は、
「映画体験そのものを描いたメタ映画になっている」ことだと私は考えています。
この映画は、マニー(ディエゴ・カルバ)が映画館で『雨に唄えば』を観て涙するシーンで終わります。どうしてここでマニーが涙したのかというと、理由は一つではないですが、その内の一つは、「『雨に唄えば』が自分自身の物語」だと錯覚したからです。優れた物語作品は、それを観たり聞いたり、読んだりした人に対して「これは私の物語だ!」と勘違いさせる力を持っています。
つまり『バビロン』という映画は、180分超の作品時間を通して、「優れた映画に直面した人間の『映画体験』」を描いているんです。この大胆な構成に私は痺れました。映画について描いた「メタ映画」を私はいくつも観てきましたが、こんな作品を私は知りません(まぁ、私はこれまでそんなにたくさん映画を観てきたわけではないですが)。

この映画の好きなところは他にいくつもあるのですが、まず、アヴァンタイトルが最高です。あのパーティシーンが凄すぎる。「これ、どうやって撮ってるんだよ……!?」と映画館で驚愕しました。これで一気に物語に引き込まれました(そして感動してちょっと泣いた)。
その後に展開されるのは、栄華をきわめた者が徐々に没落していく、「盛者必衰」の物語です。それがまた物悲しくて心打たれます。そして、このストーリーには作り手(おそらくチャゼル氏)の「才能」に対する見解が表れていると私は思います。『バビロン』から「才能」というものを読み解くと、それは、「その人が持っている素質がその時代・その社会のニーズに合致しているに過ぎない現象」となると思います(マイケル・サンデル著『実力も運のうち 能力主義は正義か?』にも同様のことが記されていました)。であるから、作中のネリー(マーゴット・ロビー)とジャック(ブラッド・ピット)は社会のニーズが変わったことによって「凡才」に変貌した。『バビロン』の中では台詞で表現されているのみですが、一方で、そのニーズに合致する新たなスターがネリーやジャックにかわって登場してきた。必ずしもネリーやジャックは「自己責任」で映画のセットから退場せざるをえなくなったわけではない。そのようにバビロンで描かれています。
監督を務めたチャゼル氏は世界で最もホットな映画監督で、彼の「才能」を非常に多くの人が認めていますが、彼自身は「才能」に関して上記のような見解を示しているのが凄く興味深いですよね。

また、『バビロン』は「デイミアン・チャゼルの『映画愛』が溢れている映画」とされています。私もそれは認めます。一方で、『バビロン』では、「映画はあくまで虚構(あるいはハリボテ)にすぎない」ということも描かれています。映画の中盤以降では、映画やその現場の「華やかさ」が「ハリボテ」であることが主に描かれています。特に象徴的なのは、マニーがジェームズ・マッケイ(トビー・マグワイア)と邂逅するシークエンスです。マニーは「虚構」を生業とする映画業界の人間です。一方でマッケイが彼に披露した大男は「本物」でした(マッケイも「本物」のギャング)。「本物」に遭遇したマニーはなすすべなく退散するしかなかった。「虚構」は「本物」には敵わない。このシークエンスはそういったことを明示的に表現したものだと私は考えます。
一方で、『バビロン』では「映画が人の心を強く動かすこと(時に、人の運命を大きく変える程)」に関しては「真実」として描かれています。
「『虚構』である映画は『真実』を体現する」

また、チャゼル氏は映画を、「過去から現在、そして未来まで連綿と続く大きなもの」として捉えています。こういった彼の映画への眼差しは中々ユニークだと思います。
そして映画の最後、マニーはその「大きなものの一部」になれていた、ということを知覚します。この点において、マニーは当初の念願を確かに成就させていたと言えます。『ラ・ラ・ランド』にも通じるこの「一筋縄ではいかないハッピーエンド」もまた良いですよね。これはチャゼル氏の作家性だと思います。「全てを思い通りに手に入れようとするのは傲慢だよ」とでも言うように。

それに加えて、個人的にはスパイク・ジョーンズ氏が演じたドイツ人映画監督のキャラクターが大好きです。私も映画を撮るので、彼の気持ちや言動になんとなくシンパシーを感じてしまいます。
トーキーに初めて臨む撮影現場を回していた助監督も良い味出してました。彼、わりと有能ですよね(ハラスメントが半端ないけど、まぁ、そういう時代設定だから)。

けっこう長く書いてしまいました。
こんなに『バビロン』が大好きな人も中々いないと思います(繰り返しますが、私の周囲の反応はイマイチです)。
この映画をこれから何回かは観ると思います。
さっき観たばかりですが、もうまた観たくなっています。

まとまりの無い文章で申し訳なかったですが、
今回はこのへんで筆を擱きます。

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