Baby you're a richman
ミリアスからの最後通告をうけ最早内戦を止められない、明日には戦争が始まる。その前夜、焚き火を囲んで最後の安寧のひととき。
焚き火の音が静かな夜に響く。梟あるいは夜鳥の鳴き声が林間を通り抜ける。
「暖かいですね」
ガブリエラの口調は穏やかだった。熱を頬に感じながら、彼女の盲目の視界にはどのような炎が浮かんでいるのだろうか。
「ガブリエラ、これをかけて」
エリヤが差し出した上着は魔女の法衣だった。薄手ながらも目の詰まった服だった。ガブリエラの膝から下を覆うように掛けた。そのままガブリエラの足の上に右手を置き、互いに手を重ねた。
「最善を尽くしたつもりだったんだが。済まない。可能な限り、こうなることは避けたかった」
今日までの行動を詫びるアブサロムの頬は痩せ落ち、焚き火の明るさをことごとく吸い込んでいた。語尾には僅かながら震えがあった。
レミクがアブサロムに変わらない皮肉をぶつける。
「アブサロム、あんたは金持ちだ。何でも持っている」
言葉だけは辛辣に聞こえたが、声色は悪戯を楽しみ続ける少年のような気配があった。
「お前もだ」
「ああ、みんなそうだ。美しい仲間の一人になった気分はどうだ? 」
アブサロムは答えず微笑む。やや皮肉めいた表情。
「わがアブサロム議長は、金は持たなくとも満たされた男だ。次は何になりたいんだ? 遠くまで旅をして何を見てきた? それともそれは目の届く範囲までだったのか? 」
アブサロムは変わらず、更に微笑む。レミクにも笑顔が見える。兄弟らしい親しみが滲む。
「さあ、立って。議長殿も今日ぐらいは踊ってもいいだろう」
《アブサロム、ため息をつきながら立ち上がる。ガブリエラとエリヤも立ち、四人で手をつないで焚き火の周りを楽しそうに周り始める。彼らは笑い、楽しそうに輪を描く》
《エリヤ、ガブリエラの手を取り耳元で何かを囁く。ガブリエラ、ありがとうと伝える》
静かに始まった夜は明日を拒み続けていた。