鳩三斤

短い小説かエッセイを書いては投稿します。

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最近の記事

短編小説『葉子と叔父の密会』

 何度か、スマホのアラーム機能に眠りを邪魔された。 ようやく観念して起きた時には、いつもより十分ばかり寝坊している。  「いけない」 葉子は慌てた。 家族が、朝食の膳で彼女を待っているはずだ。  二階の自室から階段を降りて居間に行った。 家族はすでにこたつを囲んで座っている。 こたつの上には家族皆の食事が誂えてあるが、誰も手をつけていない。 テレビをつけるでもなく、家族それぞれが静かに座ってただじっと待っている。 何事だろう、と葉子は思った。  葉子は、すでにこたつに座っ

    • 力技広告動画飛ばし

       動画投稿サイトに閲覧目的で入り浸っている。 しかし肝心の見たい動画が開始される前に、スキップできない広告動画が挿入されることが増えた。 そして、その動画投稿サイトの常連広告主なのか、概ね同じ会社の広告動画が頻繁に表示されるようになる。    そういう常連広告主の広告動画のいくつかは、私は好きではないのだ。 好き嫌いが多い性分で、嫌いな広告動画がいくつかある。 その広告動画の演出センスが嫌い、取り上げられている製品ブランドが嫌い、もうその製品ブランドの会社自体が昔から嫌い、と

      • 短編小説『根無しの娘』

         デプエント城内の人々は、浮足立っている。 近いうちに戦が始まる。 デプエント城は、城内に王の宮殿を中心とした王都の周囲を高い城壁で囲んで守っている。 高い城壁の上には守備兵を配し、昼夜を問わず城内外に監視の目を向けている。 城内には畑と牧場とがあり、城兵と民が何年かの籠城を耐える食料の備えもあった。 しかし城外の全ての豪族と集落を敵に回しては、何年籠城できても先がない。 城兵の監視下にも関わらず、家財道具をまとめる者、城外へ逃亡する者が後を絶たない。  一年前、デプエント

        • 短編小説『無人販売所頼み』

           田島には、定期的に火を通した卵を口にしたくなる嗜好があった。 それで、中華料理はさほど好きでもないのに、炒飯だけは週に一度必ず食べる。 多い週では、二、三回炒飯を食べることもあった。  土曜日の昼時、炒飯を食べたくて仕方なくなった。 台所に入り、冷蔵庫を確認した。 生卵が切れている。 しまった、と思った。 先週末に街まで買い出しに行った時に卵を一パック買ったが、その分を週の半ばで使い切ってしまったのを忘れていた。  今週は、月曜日に煮卵をつくったのだ。 醤油とみりんで程

          短編小説『脳筋巡査飛鳥山』

          新宿区蠣山町という土地は、江戸時代でいうと、高遠藩内藤家の下屋敷の東の外れにあたる。 蠣山町の立地は、高台である。 土地の伝説では、内藤家の膳で好まれた蠣の殻がこの場所に捨てられて積り、山になったと伝わる。 もしくは、内藤氏が来るずっと以前、鎌倉の頃から柿の木が生い茂る山だった、という異説も。 いずれにしろ、内藤新宿の宿場が開設されて後は、宿場の東側と江戸市中とを繋ぐ要所として、高台の上に木戸と番小屋とが置かれた。 現代に至り、ちょうどその番小屋があった跡地に、蠣山町交番が出

          短編小説『脳筋巡査飛鳥山』

          短編小説『暇になって発見が多い』

          こういう生活を続けていてはいけない、と半田は思った。 長年の職を辞して以来、部屋で寝たり起きたりの生活を繰り返している。 もう半年近くなるだろうか。 己の天職だと、自他ともに思っていた職を離れることになり、まだ気持ちの収まりがついていない。 些細な行き違いから、職場の人間関係がこじれたことが、半田の退職の原因だった。 「天職が駄目になったのに、次は何やって生きたらいいんだろうなあ」 部屋の天井の木目を目で追いながら独り言ちた。 前職に就くにあたって上京し、それ以来住んでい

          短編小説『暇になって発見が多い』

          短編小説『表現にこだわったり、おざなりにしたり』

          小指の角で頭を打って、痛くて、腹が立って腹が立って。 本当は箪笥の角で足の小指を打ったのだが、箪笥の角で足の小指を打って、というのがまどろっこしくて嫌いで、口に出せなかったのだ。 それで、小指の角で頭を打った、とした。 「箪笥の角でしょ」 指摘されて、柴田は、うん、と素直にうなずきはしなかった。 指摘した相手が、何かと人の揚げ足を取る人間、吉山だったからだ。 まず、言い間違えたのではない。 自分の言語嗜好の故に、故意に言い違えたに過ぎない。 それを、言い間違えたのだと認め

          短編小説『表現にこだわったり、おざなりにしたり』

          文章のネタが無い時、発想を得る流れ

          文章を書きたいけれども書くことが無い。 ネタが無い。 そんなときに私は、むやみに本を読んだり映画を見たり、既存の作品に触れて何とかしようとすることが多かった。 でも、読書や映画鑑賞やの後で、なにがしかの創作意欲を得ることはあっても、文章のネタそのものを得た経験があまり無い。 「いい作品に触れて、自分もいっそう文章が書きたくなった。でもやっぱりネタが無い」 という状態に落ち着いて終わる。 じゃあどういう瞬間に文章のネタを思いつくことができたか。 あまり経験自体が多くないのだけ

          文章のネタが無い時、発想を得る流れ

          短編小説『東京旅行の二人と怪人』

          野乃と亜美、二人ともテンションが上がって騒ぎながら歩いて来たので、その時も違和感は無かった。 「あはっ、野乃あれ見て、変な人」 亜美が道路の向こうを指さしながら、甲高い笑い声を上げた。 二人共に進路が決まった高校三年の夏休み、前倒しの卒業旅行で初めて来た東京渋谷の街。 駅前のハチ公像を見てひとしきりコメントした後、渋谷スクランブル交差点で大勢の人と共に信号待ちをしている最中だった。 「え、どの人よ」 亜美が指さす先は、道路の向こう、センター街入り口付近に集まる人々の群

          短編小説『東京旅行の二人と怪人』

          短編小説『酒煙』

          べろんべろんに酔っぱらった男性の身柄を確保した。 駅前の繁華街から離れた、住宅地の街路灯の明かりの下で見つけた。 まだ夜は冷え込みが残る気候で、男性は防寒着を羽織らず、スーツだけの服装だ。 人はとことん酔うと、寒さを感じなくなる。 「え、酩酊状態の男性、確保。年齢、いくつぐらいでしょうね。ちょっとわかりません。顔が全体的に赤く染まる程度には入ってます。だいぶ飲みましたね。どうぞ」 パトカーの運転席に座ったまま、巡査長、竹吉は無線機のマイクに報告している。 街路灯に背中を預

          短編小説『酒煙』

          短編小説『春巻き』

          昨今よく言うが、街中華、というジャンルの飲食店がある。 日本人店主が経営する、日本人向けにアレンジされた中華料理を出す。 地場の商店街なんかにあって、昭和の時代から営業しているような懐かしい感じのする中華料理店。 中華料理を出す食堂、という感じ。 「春巻きには思い入れがありましてね。学校給食で食べたのがそれは美味かったもんで、当時これが中華料理だなんて知らず、なんて旨いものが世の中にはあるんだと。今でもこういう店で見つけると、頼んでしまうんです」 私が街中華の店に入ること

          短編小説『春巻き』

          鳩三斤です。はじめまして。

          読んだ人に楽しんでもらえる文章が書きたくて、Noteを始めました。 自分自身について、ここに書ける背景は何もありません。 作品を投稿して、ゼロからの世界観構築になります。 作品を読んでもらって、どういう人間が書いているのかを想像してもらえると嬉しいです。 よろしくお願いします。

          鳩三斤です。はじめまして。