ただのオープンガード

1 今回は、ジョン・ダナハーの「オープンガード」教則を見た感想の続きを書こうと思う。


 この教則は、前から順に「オープンガードの哲学」「バタフライガード」「スパイダーガード」「デラヒーバガード」と来て、6枚目に相当する部分で「ただのオープンガード」を紹介している。
 「ただのオープンガード」と言われ何ぞや?という方は、次の動画を参照して欲しい(但し、ダナハーの「ただのオープンガード」はこの組み方ではない)。

 ダナハー曰く、「「オープンガード」には様々なバリエーションがあり、そのあまりの種類の多さにどれを選択したらいいか迷う人がいるかもしれない。そういう人に対する私からのアドバイスは、迷ったら片襟片袖をグリップしたただのオープンガード一択だ。ただのオープンガードを一つ覚えれば黒帯までそれだけでやっていけるし、他の「オープンガード」に取り組んで迷った時には、「ただのオープンガード」に帰ればよい」。
 以前、サウロ・ヒベイロの『柔術大学』について紹介した事があったが、『柔術大学』はBJJの過程をディフェンス→エスケープ→ガード→パスガード→サブミッションの5つに分けている。裏を返せば、「オープンガード」はBJJの過程における「ガード」のそのまた一部分でしかない。

2 それにも関わらず、日本のBJJ村では柔術の技術体系の中でも「オープンガード」にだけフォーカスを当てて練習している人が多いように感じる。
 確かに、YOUTUBEのBJJ関連動画を見ていると、「なんとかガードのからのアタック」「かんとかガードからのスイープ」といったテクニックを紹介する内容が非常に多い。
 そういう動画は、ある種TVCM等の広告と同じようなモノで、視聴者にそうしたテクニックへの欲求を喚起するような作りになっている。
 特に日本の場合、「オープンガードと言えば、まずはスパイダーガード」という風潮が非常に強い。
 だが、世界的に見れば「スパイダーガード」は完全に流行遅れである。BJJfanaticsの教則から「スパイダーガード」で検索して出てくる結果はたったこれだけしかない(しかも、一部「スパイダーガード」とは違うテクニックを扱った教則すら含まれている)。


 BJJfanaticsで販売されている数多の教則の中で「スパイダーガード」の教則がこれだけという現状を見ると、世界的には「スパイダーガード」への需要がほとんどないと言う事が分かるのではないだろうか。
 また、先日海外に住んでいる日本人の方が出稽古に来られたが、その方は在住先の道場がノーギしかやらないという方針で、「IBJJFって何ですか?」「スパイダーガード?今日初めて知りました」と言っておられた。
 日本の一般的な道場に通っている人から見れば、その方の所属しておられる道場は「変な」道場に思えるかもしれない。だが、海外から見れば日本の一般的な道場の方が「変に」見えている可能性ある。
 日本には日本の柔術のあり方があって良いと思うが、それでも日本の柔術が世界標準からはズレている、あるいは、ガラパゴス化しているのかもしれないという認識は持っておいた方がいいと思う。

3 以前も同じ話を書いたが、昔出稽古来られた色帯の方で、モダン柔術の技術を使いこなして大変「上手い」人がおられた(大きな大会でも優勝されていた)が、「クローズドガードはやった事がない」「割り方が分からない」と言っておられた。
 試合に勝つためには「クローズドガード」に関連する技術を習得する必要がないのは事実だろうが、「オープンガード」のそもそもの語源は、「クローズドガード」に対する反対概念である。
 グレイシー柔術では、「クローズドガード」がアタックポジションとされ、「オープンガード」はそれ以外。つまりディフェンスポジションと考えられているそうである。
 「オープンガード」をどうしていいか迷っている方がおられたら、ダナハーが言うようにまずは「ただのオープンガード」を覚えて、足の効かせ方や相手の崩し方を覚えて見てはどうだろう。
 ルーチを度外視すれば、「スパイダーガード」に入られても相手にしなければ疲れるのはボトムの方である。(B・ファリアの言を引用すると)「正座ベースになってしまえば、デラヒーバフックや50/50に入られることも、ベリンボロを喰らう事もない」。
 日本のBJJ村では、柔術が「試合に勝つためのテクニック」と「(グレイシーの)護身術の型」のどちらかしかないような極端な印象を受けるが、柔術はもっと奥が深いモノである。「試合に勝つ」事に囚われず、もっと自由に柔術を楽しんだ方がいい。他人の評価を気にせず、自分のために稽古しよう。

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藤田 正和
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