何のために何をやるか?


はじめに


 本稿では、前回に引き続きジョン・ダナハーの「Solo BJJ Training Drills」を用いて、「エビ(Shrimping)」について書いていきたい。


 ウパ(umpa)と異なり、国内外の多くの道場において、エビは「ウォームアップ」ないし「ムービング」の1つとして誰しも毎回やっているのではないだろうか。
 ただ、もし柔術の素人から「何のためにエビの練習をしなければならないか?」と聞かれて、即答出来る人がどれくらいいるだろう?「立って歩くのと同じように、寝た状態で歩くのがエビであり、だから寝技が中心の柔術ではエビが基本なのだ」という話を聞いた事があるが、その説明に私は納得出来ない。
 もし、「寝た状態」という言葉がグラウンド全般を意味するならば、Scootig(シッティングガードのまま前後に歩く動作。詳しくは「 Solo BJJ Training Drills」vol.1 36:47~を参照)の方がエビよりもよほど素早く動けるだろう。

 また、エビを使う代表的な技術に各種「エルボーエスケープ」があるが、「ウォームアップ」でエビを覚えた白帯の人が「エルボーエスケープ」をしようとしても、大多数の人はトップに抑え込まれた状態からエビで「エスケープ」する事はおろか、動くこともままならないのではないだろうか?
 「エルボーエスケープ」に必要とされるエビと、「ウォームアップ」としてのエビは別物と考えた方がいい。

 シャンジ・ヒベイロは、「ほとんどの道場でなされているエビはエクササイズとしては意味があるかもしれないが、柔術には何の役にも経たない」と言っている。
 同様に、ジョン・ダナハーも、「エビは不幸な事にウォームアップのひとつとして扱われる事が多いが、これをコンバットスポーツで使えるようになるためには、エビに対する考え方を変えなくてはならない」と述べている。

エビ(Shrimping)の目的論


 シャンジやダナハーが世界中で行われているエビのドリルに疑問を呈しているのは、BJJを教えている大半の道場で、①「何のためにエビをするのか?」というエビの目的と、②エビというmovementを含む具体的なテクニックを教えるに際して、「どのようにエビを用いるのか?」というエビの実践例(効果)の両面において、所属する会員に対してきちんとした説明が出来ていないからではないかと私は考えている。
 平たく言ってしまえば、大半の道場では「なぜ貴方はエビをドリルするのか?」と聞かれれば、「なんとなくこれまでもやってきたから」という以上の回答が出来ないだろうという事である。

 惰性でエビをやってもエクササイズ以上の効果は得られない。
 とりわけ「モダン柔術」だけで柔術を組み立てようと考えている人にとっては、エビをドリルするだけ時間の無駄だと言えるかもしれない。

 もしドリルとしてエビをするのであれば、それを「何故?」「何のために」繰り返すのか?ドリルの目的と効果についてきちんと自分なりに説明できる必要があるだろう。
 

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