「担ぎ」―連関的思考の勧め―

1 BJJや柔道で「担ぎ」(「ダブルアンダー」「スタックパス」)と呼ばれる技術がある。
 https://www.youtube.com/watch?v=-tTRzbBR2_I
 https://www.youtube.com/watch?v=PizdshB63kw
 上が白木先生(日本語)、下がジェフ・グローバーの動画である。「担ぎ」の細かいディティールは使い手によって差異があるが、上記の動画で大体のイメージは掴んで頂けるかと思う。
 「担ぎ」はBJJでは一般的に「パスガード」のテクニックのひとつとして扱われている。その位置付けは正しいのだが、「担ぎ」を「トレアナ」や「ニースライス」と並ぶ「パスガード」テクニックと固定して考えてしまうと、トップを取った側が下の相手に対してコネクションを作り、体重を掛ける感覚を養うための格好の素材となる点を見逃してしまう恐れがある。

2 私が道場の若い子に「担ぎ」を教える時には、単に「ダブルアンダー」だけでなく、次のような「担ぎ」を使った「サブミッションエスケープ」も一緒に覚えてもらうようにしている。
 アームバーエスケープ:https://www.youtube.com/watch?v=bEGOaGOOZA4
 この動画の1:55~を見て頂きたいのだが、アームバーエスケープに「担ぎ」を応用している。相手に腕を捕られそうになったら、両腕をロックして、前に体重を掛けて相手を潰し、そのままパスする。
 ここで重要なのは、「パスガード」することではなく、相手に体重を掛けて潰す事の方である。「担ぎ」がきちんと出来ていれば、このアームバーエスケープを習得することは難しくないし、逆にこのアームバーエスケープのドリルをする事によって、相手にどうやって体重を掛けたらよいか?という「担ぎ」の理合を理解する助けにもなる。
 私の場合、白帯の間は「パスガード」のテクニックとしてのダブルアンダーを使った記憶がなく、「担ぎ」はもっぱらアームバーと次に紹介する前三角締め(動画の冒頭のやり方)に対するエスケープとして使っていた。
 https://www.youtube.com/watch?v=XvsneDpJ18Y
 さて、単に「担ぎ」を「パスガード」のテクニックとしてだけでなく、「サブミッションエスケープ」としても使う事が出来るようになれば、自ずと「担がれないようにするためにはアームバーや前三角をどうやって掛ければいいのか?」という疑問が出てくるはずである。
 結論から言えば、アームバーであれば、外足でしっかり相手の首を刈る事、三角であれば、4角ロックの中で相手に頭を起こさせない事である。
 つまり、「担ぎ」を使う際に相手の力の出所となる首をまずコントロールすべきだという話である。
 このように「担ぎ」を「パスガード」のテクニックとして単体で覚えるのではなく、「サブミッションエスケープ」にも活用すれば、結果的に「サブミッション」そのもの理解を深める助けにもなる。
 BJJのテクニックは山のようにあるが、このように相互に関連付けて覚えていけば、(時間さえかければ)覚えるのに苦労する技術はそれほど多くないと思う。

3 「担ぎ」の理合を理解し、「サブミッションエスケープ」を習得できれば、「パスガード」にこれを応用するだけである。
 クローズドガードを割ってパスする技術に「担ぎ」(正確には「片足担ぎ」)を応用したテクニックとしてはヒクソンの次の動画が参考になる。
 https://www.youtube.com/watch?v=RrD643OqTao
 また、「スパイダーガード」を「担ぎ」を使ってパスする一例も紹介しておこう。
 https://www.youtube.com/watch?v=v9Fyn7YEddk
 こうした技術は「担ぎ」の応用に過ぎない。「クローズドガード」にはこういうパスを、「スパイダーガード」にはこういうパスを、「デラヒーバガード」には・・・という風に「ガード」に合わせてパス公式を覚えようとする人が少なくないが、それでは新しいガードが出る度に公式を覚えなければならないだろう。
 パス公式を覚える時間があったら、基本的な技術(本稿で扱った「担ぎ」がその例である)の練度を高め、あらゆるガードに対してそれを応用できるようになった方が思考経済上も合理的なのではないだろうか。
 私の好きなヘンリー・エイキンスが「相手が袖を持つか、襟を持つか、足を何処に掛けるかで、1000も2000もガードは生み出すことが出来る。君は一々そのパス公式を覚えるのか?私が教える「パスガード」の技術はたったひとつだ。『胸と胸を合わせる(chest to chest)』・・・「デラヒーバガード」をパスするのに10も20も公式を覚えなくていい」と語っているのを参考にして欲しい。大事なのは、いたずらに手数を増やすより、ひとつの技術の練度を高めてそれをあらゆる状況に応用できるようになる事だろうと私は考えている。
 
 

宜しければサポートお願いします! 執筆の励みになります。