ジョゼフ・チェンの見る世界

1 先日5年ぶりにQUINTETのナンバーズ大会が開催された。大会直前にジョン・ダナハーの「NEW WAVE」柔術の代わりに、クレイグ・ジョーンズ率いる「B-TEAM」が出ることになり、メンバー表を見た瞬間に、「B-TEAM」が優勝するであろうことは素人目にも予測がついた(注1)。

注1)


 ただ、「B-TEAM」はクレイグ以下昨年のADCC本選出場者をメンバーに揃える中で、「ジョゼフ・チェン」という名前を見て、正直に告白すると「誰?」と思ってしまった。
 「B-TEAM」のメンバーに「ジョゼフ・チェン」なる(私にとって)未知の若者が入ったことに少なからず驚いて調べてみたら、7月のIBJJFアジアで茶帯・ミドル級で優勝していると分かった(注2)。
 
注2)


 さらに昨年行われたADCCアジア・オセアニア予選で、当時17歳で3位になっている(注3)。


 そうした実績に加えて、若干18歳で「B-TEAM」の数合わせではなく、本気のメンバーに入っている所を見ると、この「ジョゼフ・チェン」という選手は相当強いのだろうと思って、QUINTET4の開催を待ったのである。

2 1回戦で「POLARIS」と「B-TEAM」が激突した際は、ジョゼフ・チェンは「タリック・ホップサック」(注4)と対戦する事になったので、試合前から否が応でも期待は高まった。

注4)「タリコプラータ」の開発者である。


 大会の翌日には、FloGrapplingから「B-TEAM」VS「POLARIS」の試合動画が公開されていたので(残念ながら、今はこの試合の動画は削除されて、代わりに「SAKURABA」VS「10th Planet」の動画が公開されている)、

ジョゼフ・チェンとタリック・ホップサックの試合は繰り返し見たが、両者がクルクル回転するスピード感のある試合を想像してたら、予想に反してジョゼフがタリックのマウントを取ったら、一方的に抑え込んでゴードン・ライアンのように攻め立て、そのままタイムアップになった(QUINTETルール上は「引き分け」)。

 先週末に行われたADCCのヨーロッパ予選でもジョゼフは優勝し(注5)、彼の強さは本物であることを証明したが、私が彼に強く惹き付けられたのは、ジョン・ダナハーの「システム(ズ)」を使いこなしている点である。

注5)

 
 ADCCヨーロッパ予選におけるジョゼフの試合で公開されているのは、次のトミー・ランゲイカーとの試合だけだが、この試合と(その下に挙げた)ゴードン・ライアンの試合を見比べて欲しい。

 マウントを取ったらまず相手をキッチリ「抑え込む」。そして、抑えたら相手の脇を上げさせるべく「ラチェット」モーションをしつこく繰り返している。ジョゼフがDDS分裂前にダナハーに師事していたのかは分からない(ネットに上がっている情報が少なすぎて調べ切れなかった)が、下の試合を見てもかなりゴードン(もしくはそのベースとなるダナハーの「システム(ズ)」)を意識したファイトスタイルになっている。


3 2年前にミカ・ガルヴァオンがWNOに彗星のように現れて、去年タイ・ルオトロを破って史上最年少でムンジアルを獲った(但し、後にPED検査で陽性となり、メダルを剥奪されている)時も驚いたが、ミカはルタ・リブレの黒帯らしく、ダイナミックな動きをするので、華があって、おそらく誰が見ても強さを感じるというタイプの選手だった。
 これに対し、ダナハーの「システム(ズ)」を実践するには、①スクランブルを極力避ける②いいポジションに入ったらまずしっかり「抑え込む」③それから相手を疲れさせて、詰めてサブミッションを取る、という地味で手間と時間の掛かる作業を要求される。
 ゴードン・ライアンも今でこそ試合では「システム(ズ)」を忠実に実行しているが、ダハナーの門下に入る前はそうではなかった。


 この動画当時のゴードンが20前後だった事を思うと、それより年下のジョゼフが「動きたい」「もっと動ける」という欲求を抑えて、勝ちに徹している姿を見ると、この先一体どれだけ強くなるのか空恐ろしいばかりである。

 先日のIBJJFアジアのライト級で優勝したコール・アバテも18歳だが、16の時に既にジオ・マルチネスに勝っている。 

 ルオトロ兄弟やミカがブレイクした時も思ったが、これから世界のトップを獲る選手は、子供のころからギ・ノーギを問わず練習し続けた柔術マシーンしかいなくなるのではないかと考えるとなんだかやり切れない気持ちになった。

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藤田 正和
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