ラバーガードとトラック-10thプラネット柔術の革新性-その2

1 本稿では「10thプラネット柔術」を代表するテクニックについてざっくり紹介したい。「ロックダウン」については前回述べたので、今回は「ラバーガード」と「トラック」について解説する。
 まずは、実際にどういうテクニックか見て頂こう。


 競技柔術に慣れた人がご覧になれば、随分と動きの多いトリッキーな技だと感じられるのではないだろうか。だが、見栄えのする技にはリスクが伴う。私の先生が色帯の頃には「ラバーガード」を組むために足を胸に引き付ける動作(チルドック)をして、自分で自分の膝を傷める人が大勢いたそうである。エディ本人も何度も怪我をして、膝の靭帯再生手術を受けている。
 そもそも「ラバーガード」を覚えるためにエディが言っている事が凄い。次の動画を見て欲しい。

 「10thプラネット柔術」のテクニックを覚える前に、まずストレッチをして身体を柔らかくせよ、と言うのである。
 成人の場合、骨格とそれに付随する靭帯が出来上がっているので、今以上に柔軟性を求めようとして過度のストレッチをすれば、靭帯が伸びて細く弱く切れやすくなってしまう。そんな事はお構いなしである。私は下半身が特に固いので、「ラバーガード」を習得しようと思ったことは一度もない。
 身体の柔らかい人は固い人に比べてより多くのテクニックを習得できるだろう。でも、身体が硬いからと言って嘆く必要はない。最初から出来る事に限りがあるというのは、考え方を変えれば、あれこれ流行りのテクニックに惑わされる必要がなく、自分が出来る事に手数を絞ってそれの練度を上げる稽古に専念できるとも言える。
 だから、普通の人は無理して「ラバーガード」に取り組む必要はないと私は思う。
 参考までに、「ラバーガード」の基礎についてエディ本人が解説した動画も掲載しておく。


2 とはいえ、「ラバーガード」や「トラック」を使いこなせるようになれば、グラップリングは非常に強くなる。前回、「10thプラネット柔術」の技術はポイントゲームとの相性が悪いと書いたが、今の日本の競技柔術でこれを使いこなしている人はほとんどいないので、これを習得すれば対処法を知らない対戦相手には有効かもしれない。
 「10thプラネット柔術」を代表する選手であるジオ・マルチネスの試合を見てみよう。


 相手はあのリダ・ハイサムである。普通に考えれば、体重で30キロ、身長も約30cm違う試合であるから、私ならば迷う事無く「逃げる」。だが、(直前の試合でジオの兄であるリッチーがハイサムに負けたので・注1)試合前のジオの「殺ってやる!」という目を見ていると、ジオは最初から勝つ気だったという事が分かる。
 普通のアマチュア柔術家に過ぎない私からすれば、上の試合で「アームインギロチン」から「マルセロチン」にジオが移行したのを見ると「勇気があるなあ・・・」と感動するのだが(注2)、単純にこの対格差を跳ね返してハイサムに勝った事だけを見ても、ジオの強さがご理解頂けるかと思う。
 もう一人、「10thプラネット柔術」を代表する選手としてグレース・ガンドラムも紹介しておこう。


 10代半ばから20になった今日までずっと活躍し続けている。
https://www.bjjheroes.com/bjj-fighters/grace-gundrum
 試合動画はYOUTUBEで検索して頂ければいくらでも出てくるので興味のある方は各人で探して欲しいが、「10thプラネット柔術」の技術をこれでもかという位使いこなしている。ただし、彼女も膝を怪我して何度か長期休養を余儀なくされている事を付記しておく。

注1)リダ・ハイサムとマルチネス兄弟の試合はこの動画を参照。

注2)「アームインギロチン」のクラッチを組んだら、相手の頭をある程度コントロールできるので、そこからクラッチを解いて「マルセロチン」に行くのは、一瞬であれ相手の頭のコントロールを失うから、ジオと同じ事は怖くて私には出来ないと思う。

3 さて、エディやグレースが膝を怪我している事に繰り返し触れたので、「10thプラネット柔術」は素人には出来ないと思われた方もいるかもしれない。だが、怪我のリスクに常に晒されている危険な技術体系であるなら、10thは世界中に支部を設ける事が出来なかったはずである。
 調べて見ると、「10thプラネット柔術」では週替わりで次のA~Hのメニューをこベーシックドリルとして練習しているようである(注3)。
①Aシリーズ https://www.youtube.com/watch?v=_znm-58RDzk
②Bシリーズ https://www.youtube.com/watch?v=_INFTLutYfg
③Cシリーズ https://www.youtube.com/watch?v=9y7kmaTfHDg
④Dシリーズ https://www.youtube.com/watch?v=Q2b6SMRYPP4
⑤Eシリーズ https://www.youtube.com/watch?v=LGE2L12N-FA
⑥Fシリーズ https://www.youtube.com/watch?v=PDhMLvfzK9w
⑦Gシリーズ https://www.youtube.com/watch?v=oUibzLZz0I0
⑧Hシリーズ https://www.youtube.com/watch?v=iYDEhuBm5_g
 この動きを全て体得できれば相当強くなれるはずである。そして、「ラバーガード」はF3しか入っていない。誰でも練習出来るように「ラバーガード」はあえてベーシックドリルから外しているモノと思われる。
 現に「10thプラネット柔術」の支部対抗戦を見ても「ラバーガード」を使っている人はほとんどいない(注4)。
 技術の発展という点を見ても、「10thプラネット柔術」は卓越している。A~Hシリーズで覚えた基礎にエディ自身も予想すらしていなかったような応用技を会員達が次々と編み出している事も10thの特徴として挙げていいだろう。
 その例として、「フライトラップ」と「デッドオーチャード」を挙げておく。
①https://www.youtube.com/watch?v=5tpXjlbnZg4 (フライトラップ)
②https://www.youtube.com/watch?v=akuCARvqbR0 (デッドオーチャード)
 「デッドオーチャード」もさらに「メキシカン・デッドオーチャード」に進化している。
 https://www.youtube.com/watch?v=kMb2aKS7E8w
 「ストンプ」が「スーパーストンプ」になり、「ウルトラストンプ」へと発展していったように、他のテクニックもどんどん進化・改良されている。
 私個人としては必ずしもテクニックを増やす事が一概に良いとは思っていないが、各人が技を創造する楽しみやガチガチに練習メニューを拘束しないおおらかさがやる側にとっての10thの良さなのだろう。
 10thのテクニックを見ていると、試合に勝つ事に拘らないで、頭を使い身体を使って自由に柔術を楽しもうというエディの指導理念を感じる。自分がやる事はなくても、見ていてワクワクする柔術であることは間違いない。

注3)以下のA~Hまでの動画に解説を付けたのが下の教則である。グレース・ガンドラムの師匠二人の作だが、本文記載の動画で情報としては十分だと思う。


注4)https://www.youtube.com/watch?v=5Teoxwumj54 EBI以外にもこういう場を設けてアマチュア会員にも表現の場を与えるというのは素晴らしいアイデアだと思う。

 「ラバーガード」や「トラック」を始めとする10thのテクニックに興味のある方は次のチャンネルも参考にして欲しい。

①Brandon Mccaghren:https://www.youtube.com/@brandonmcninja 
特にこの中の「1分間柔術」
②Zachary Maslany:https://www.youtube.com/@ZacharyMaslany/videos
注3でも述べたグレース・ガンドラムの師匠の一人である。

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