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#194:ショートショート『どちらの地図を信じる?』

ネガティブ・ケイパビリティという言葉を聞いたことがありますか?
これは、不安や不確実な状況に直面しても、すぐに答えを求めず、その曖昧さや揺らぎの中にとどまりながら平常心を保つ能力のことです。

私たちは日々、「正しい選択」や「確かな答え」を求めてしまいがちです。ですが、世の中にはすぐには結論が出ないことや、そもそも唯一の正解がないことがたくさんあります。
特に、価値観が多様化し、変化のスピードが増している今の時代、何もかもを明確にしようとすると、かえって焦りや迷いに飲み込まれてしまうこともあるでしょう。

そんなときに役立つのが、この「ネガティブ・ケイパビリティ」です。
物事がはっきりしなくても、すぐに結論を出そうとせず、落ち着いて受け止める力。
むしろ、その曖昧さの中でこそ、新しい可能性が見えてくることもあります。

ショートショート 「どちらの地図を信じる?」

旅人のアオルとカイは、広大な森の入り口で立ち止まった。

二人とも地図を持っていたが、その内容は違っていた。

アオルの地図は、整然とした道が描かれた詳細なもの。一方、カイの地図は地形の特徴だけが描かれた大まかなもの、道の線はほとんどなかった。

「これなら、どこを進めばいいのか分かるな」

アオルはそう言って、地図を頼りに歩き始めた。しかし、しばらく進むと、道は草木に覆われ、地図通りには進めなくなっていた。

「おかしいな…道があるはずなのに」

焦るアオルの隣で、カイは静かに周囲を観察していた。

「この森って、毎年少しずつ変わるんだよ。だから、書かれた道をそのまま信じても、通れるとは限らないんだ」

「でも、道が分からないと、どっちへ進めばいいか決められないだろ?」

「決められないなら、自分で探せばいいんじゃない?」

カイは地図に頼らず、太陽の位置や地面の起伏を見ながら慎重に歩みを進めた。そして、茂みの先に細い小道を見つけた。

「こっちなら進めそうだ」

アオルはまだ地図を握りしめたまま、動けずにいた。

「そっちだと遠回りになっちゃうかもしれない…」

カイは笑って肩を叩いた。

「遠回りがダメだなんて、誰が決めたの?」

アオルはハッとして、もう一度森を見渡した。

「…そうだな。とりあえず、行ってみるか」

二人はゆっくりと、森の奥へと歩き出した。

答えのない旅だからこそ、自分で確かめながら進めばいい

(ショートショート、おしまい)


私達はつい「すぐに答えがほしい」と思ってしまいます。
でも、ほんの少し立ち止まって、わからないままの時間を味わってみると、新しい発見があるかもしれません。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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《私について…》

私は『ジブントリセツ作成サポーター』として、人生の節目節目でライフキャリアに悩む女性が自分らしい生き方をかなえるためのサポートをしています。
noteペンネームは「さいた みこ」、ジブントリセツサポーターとしては「しみず えみこ(=しみこ)」として活動しております。


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