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LGBT問題の基礎知識

LGBT問題について理解するために必要な基礎知識をまとめてみました。
基本的な用語の説明から、最近国会で成立したLGBT理解増進法の話題まで。


LGBTとは

レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーといった性的少数者を指す言葉。
キリスト教、イスラム教、ユダヤ教の国では宗教上の理由で激しく弾圧されてきた歴史がある。

近年ではQ(クィア、クエスチョニング)、I(インターセックス)、A(アセクシャル、アロマンティック、アライ)、+(その他)を付け加えて、LGBTQIA+としていることもある。

ジェンダーとは

1950年頃にアメリカの性科学者ジョン・マネーや、精神分析学者ロバート・ストラーが提唱した概念。
元々のジェンダーの意味は女性名詞、男性名詞などの単語の「性別」を指す言語学の言葉だった。
マネーとストラーは、生まれながらの肉体の性(sex)とは異なる行動をとる人々がいることに着目し、それを彼らの性別に関する自己認識(性自認、ジェンダー・アイデンティティ)が肉体の性(sex)と異なっているためだと考えた。
マネーはジェンダーの形成には環境要因が大きいと考え、生後18ヶ月まではジェンダーは中性なので肉体の性とは異なる性へと性転換可能と主張していた。
これをきっかけに、医学、精神医学だけでなく、社会学やフェミニズムの分野でもジェンダーが研究され始め、今ではジェンダーは非常に複雑な概念を持つ言葉になっている。

1990年に哲学者ジュディス・バトラーが主張した「セックス(肉体の性)もまた文化的に構築されたものであり、その点においてセックスもまたジェンダーである」という理論が学者間で広く受け入れられてからは、ジェンダーこそが性別を決定する最も重要な要因であると考えられている。

テレサ・デ・ラウレティスというアメリカのジェンダー学研究者が、当時バラバラになりかけていた性的少数者を団結させる目的で「クィア理論」というものを提唱し、それに哲学者ジュディス・バトラーが『Gender Trouble』という本を書いて、クィア理論に現代哲学的肉付けを行い、性別二元論を否定した(性別は男と女の2つだけではないと主張)。
このクィア理論はLGBT活動家やフェミニスト、学術関係者らに広く受け入れられ、世界中に今日まで続く大きなムーブメントを起こし、各国にジェンダー・セルフID制度(医師の診断書や性別適合手術無しで、本人の自己申告のみで法的な性別変更を可能にする制度)を認めさせるなど、社会制度を変革させるほどの影響力を持っている。

(参考)
ジェンダーについてのWiki
ジェンダー概念の検討(歴史についての詳細)
ジョン・マネーのWiki

(関連記事)


新しい性別分類について

外性器の形で男と女に分類する従来の性別分類法と、クィア理論に基づいた新しい性別分類法がある。
現在は国連をはじめ、多くの先進国が新しい性別分類法を採用しつつある一方、日本ではまだ浸透しているとは言い難い。

ここでは、新しい性別分類法について解説する。
新しい性別分類法においては、性別は①肉体の性別、②性自認、③性的指向、④性表現の4つの要素で構成される。

①肉体の性
基本的には生まれた時の性別により、男性/女性に分けられる。

※DSDs(性分化疾患、インターセックス)の人については、医師から認定された性別で判断。
「半陰陽」「両性具有」「男でも女でもない」「第3の性」などという表現は多くの当事者を深く傷つけることになるため要注意。

②性自認
自分の性別の認識によって、男性/女性/Xに分けられる。
Xジェンダーは単純に男性、女性と決められない場合の分類。「中性」「無性」「男でも女でもある」「その時々で男になったり女になったり」などが含まれる。

※Xジェンダーは日本独特の概念である。海外ではクィアに分類されたり、ノンバイナリー、ジェンダーフルイドなど個別の名称を与えられたりする。

③性的指向
本人の性自認、および性的対象の性別により分類される。

男性→女性、女性→男性 :ヘテロセクシャル(異性愛者)
男性→男性 :ゲイ(男性同性愛者)
女性→女性 :レズビアン(女性同性愛者)
男性→男女、女性→男女 :バイセクシャル(両性愛者)
男性→全部、女性→全部、X→全部 :パンセクシャル、オムニセクシャル(全性愛者)
男性→無し、女性→無し、X→無し :アセクシャル

④性表現
服装や言葉遣い、振る舞いが男っぽいか、女っぽいか、中性か。

①肉体の性と②性自認が一致していればシスジェンダー、一致してなければトランスジェンダーに分類される。Xジェンダーはトランスジェンダーの一種。

肉体の性:男性、性自認:男性→シスジェンダー男性(シス男性)
肉体の性:女性、性自認:女性→シスジェンダー女性(シス女性)
肉体の性:男性、性自認:女性→トランスジェンダー女性(トランス女性、MtF)
肉体の性:女性、性自認:男性→トランスジェンダー男性(トランス男性、FtM)
肉体の性:男性、性自認:X→Xジェンダー(MtX)
肉体の性:女性、性自認:X→Xジェンダー(FtX)

トランスジェンダーの中で、性別違和(性自認と異なる肉体であることに対する違和感)が強く、性別適合手術を行なった人、あるいは手術を希望している人のことをGID(gender identity disorder:性同一性障害)と呼ぶ。
日本においては、手術などの条件を満たしたGIDは戸籍の性別を変更することができる。
性別違和が強くなくて、手術を希望しないトランスジェンダーもいる。

一般的な異性愛者の男性であれば
①肉体の性 :男性
②性自認 :男性
③性的指向 :女性
④性表現 :男性
となり、ヘテロセクシャルのシス男性となる。

①肉体の性 :女性
②性自認 :X(無性)
③性的指向 :無し
④性表現 :中性
この場合は、アセクシャルのXジェンダー(FtX)もしくはノンバイナリーになる。

※ノンバイナリー…自身の性自認・性表現に「男性」「女性」といった枠組みをあてはめようとしないセクシュアリティ

①肉体の性 :男性
②性自認 :女性
③性的指向 :女性
④性表現 :女性
この場合はレズビアンのトランス女性になる。


※上記の分類法は日本独自な点も多い。
参考までに海外の分類も紹介する。

(1)ストーンウォール系の分類

イギリスの大手LGBT活動家団体であるストーンウォールなどが提唱する分類。
「トランスジェンダー」という言葉の傘の中に様々な属性を含むことを特徴とする(アンブレラ・ターム)。
常に変化を続ける言葉であり、2014年時点では上記のように、MtFやFtMはもちろん、クロスドレッサー(異性装)やエイジェンダー(ジェンダーがない)、ドラァグクィーン/ドラァグキングなども含んでいた。

(参考)
上記の図の出典元

日本語訳の出典


(2)国連による定義

国連による定義もアンブレラ・タームを採用しており、非常に多彩である。
「社会で求められる性役割と異なるふるまいをする者、あるいは自身をそのように認識する者」は全てトランスジェンダーと分類される。

(参考)
上記の図の出典。国連の該当ページへのリンクあり。


LGBT思想とは

クィア理論に基づいた、新しい社会を目指す思想。性的マイノリティを含む全ての人が自分らしく生きられる世界を目指している。
肉体の性別よりも性自認を重視したシステムへの変更を求める事が多く、トランスジェンダーが性自認に応じたトイレや更衣室を使えるように求めたり、トランス女性が女子スポーツの大会に出られるように求めたり、トランス女性の女子大への入学を支持したりする。
またはトイレのオールジェンダー化など、性別による区分を無くす方策を求める事もある。
日本においては、日本政府に対して欧米並みのLGBT差別禁止法を作るように求めたり、戸籍の性別変更における手術要件の廃止(性別適合手術なしで法的に性別を変更できるようにする)、同性婚の合法化などを求めている。

LGBT思想に基づいて、社会変革運動を行っている人のことをLGBT活動家と呼ぶ。またそれに賛同する人のことをアライ(Ally:支援者)と呼ぶ。

現在もかなりたくさんのLGBT活動家団体が活発に活動しており、自治体と連携して差別禁止条例を作ったり(2023/6/20時点で全国で71の自治体が条例を制定)、学校教育の現場で子どもたちにLGBT思想についての教育を行ったり、企業や団体がLGBTフレンドリーかを評価する認定制度を行っていたりする。
このように人々への啓発と教育を行なって、社会を変革することが目的。

LGBT思想に批判的な人達は、この思想をトランスジェンダリズム(性自認至上主義)だと批判している。
LGBT思想に批判的な人達は、活動家達からはしばしば「反トランス派」「TERF(ターフ、トランス排除的ラディカルフェミニストの略)」「トランスヘイター」「トランスフォビア」などと呼ばれることがある。
一方で批判者の中には自分をGC(ジェンダー・クリティカル)であると自称する人達もいる。恐らく、トランスジェンダリズムへの批判者みたいな意味だと思われる。

LGBT当事者≠LGBT活動家であることに注意。
日本においては、LGBT思想に賛同しない当事者が多いという話もある。
一部のLGBT活動家は、LGBT思想に賛同しない当事者に向かって「活動に賛同しないならば、LGBTではない」と主張した。

トランスジェンダリズムとは

1965年にジョン・F・オリベン博士が医学書の中で使ったのが最初。
トランスセクシャリズム(性別適合手術を行う人々)という言葉に対して、トランスジェンダリズム(性別適合手術の有無に関わらず肉体の性とは異なる性別を自認する人々)が使われた。
その後、当事者のコミュニティや医学界などでも普通に用いられ、本や学術誌などのタイトルでも使用されていたとのこと。
日本においても2003年に『トランスジェンダリズム宣言』という本が発売されて、しばしば論文にも引用されていた。
ところが、2010年頃から反トランス派の人々により「トランスジェンダリズム」という言葉が批判的文脈で使われるようになり、当事者や支持者が使いにくい雰囲気になってしまった。
その結果、この単語を使うのが反トランス派ばかりになり、いつのまにかトランスジェンダリズム=反トランス派の言葉なイメージになり、今ではまるで差別用語のような扱いをされている。

類義語にジェンダー・イデオロギー、トランス過激主義、ジェンダー・カルトなどがある。

ジェンダー・セルフID制度(性自認法)とは

政府に自身の性自認を申告することによって、法的に性別を変更することができる制度。
精神科医の診断書などは不要で、もちろん性別適合手術も行う必要は無い。
2012年にアルゼンチンが始めたのを皮切りに、20カ国以上の国が制度を導入している。

ジェンダー・セルフID制度を導入している国は以下の通り。
デンマーク、ポルトガル、ノルウェー、マルタ、アルゼンチン、アイルランド、ルクセンブルグ、ギリシャ、コスタリカ、ブラジル、コロンビア、エクアドル、ウルグアイ、メキシコの一部(メキシコシティ)、アメリカの一部(ニューヨーク、カリフォルニアなど)、カナダの一部。

最近導入された、あるいは今後導入される予定の国。
フィンランド、スペイン、スイス、ドイツ。

また医師の介入は必要であるものの、性別変更に手術が必要なくなったのが、ボリビア、スウェーデン、カナダ、フランス、英国、オランダなど。

日本においてもLGBT活動家がGID(性同一性障害)の戸籍変更における手術要件の廃止を求めている。
現在、最高裁で手術要件が違憲かどうかを審議中。

ちなみにジェンダー・セルフID制度の学問的根拠はクィア理論で、これはアメリカ人哲学者ジュディス・バトラーの「セックス(肉体の性)は常に既にジェンダーである」という理論を基にしている。これを根拠に肉体の性と性自認を区別する必要はないと判断されている。
意味を理解したい方は、こちらの解説をどうぞ。たぶん、世界一わかりやすいバトラー解説。

LGBT差別禁止法とは

左派系の活動家団体であるLGBT法連合会が制定を目指している法律。
日本にも他の先進国並みのLGBT差別禁止法が必要だとの理念のもとに作成された。
正式名称は「性的指向又は性自認を理由とする差別の解消等の推進に関する法律案」。
国や自治体、企業や学校が差別解消のための研修を受けることを義務づける他、内閣府に性的指向・性自認審議会という差別を解決するための強力な権限を持った組織(当事者団体や学者などがメンバー)を設置することなどが具体的に書かれている。
2016年に第190回国会に提出されたものの廃案となった。
法案の詳細は衆議院のホームページで見られる。
性的指向又は性自認を理由とする差別の解消等の推進に関する法律案

一言でいうと、帰ってきた人権擁護法案という感じ。

LGBT理解増進法とは

保守派の団体であるLGBT理解増進会により作成され、自民党&公明党により「性的指向及び性同一性の多様性に関する国民の理解の増進に関する法律案」として2023年5月に国会に提出された法案。
日本に必要なのは差別禁止法ではなく、理解増進であるとの理念のもと作られている。左派のLGBT活動家の暴走を止めることが目的らしい。
その後の国会審議を経て、最終的には日本維新の会&国民民主党の案も加えた「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律案」として可決された。

この法律について、与党の法案作成者(繁内幸治氏)の発言をまとめたもの。


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