湿原の秋1
「なにか珍しいもの、あるんですか?」
いつしか周囲のことを忘れて
無心に撮影していた
ハンディな図鑑を開いた年配の女性が
膝をついている私の視線に接近しようと
にこにこと背をかがめてきた。
いえ、秋の気配を撮ってるだけですよ
なんて返答するのはキザすぎる
「あのあたりのシラタマホシクサ
いい雰囲気だなって撮ってるんです」
「・・・・・・
シラタマホシクサなら
湿原のあちこちで見られますね
ミミカキグサの珍種でもあるのかと思いました」
なあんだと興ざめしたような顔になり
さっと背筋を立てて遠のいて行った
秋の濃厚な
気配を感じるままに
伝えようとするのは容易ではない
言葉でも写真でも
撮影地 愛知県豊橋市 葦毛湿原