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「サムライ・スタートアップ:戦国武将の起業戦略」7/N

第6章:豪胆と堅実の攻防

1. オフィスでの報告会

サムライ・スタートアップ株式会社のオフィスでは、役員の集まる資金管理報告会が始まろうとしていた。会議の主導を握るのは、冷静沈着なCFO、徳川家康。堅実さがそのまま形になったような男で、信頼できる資金管理と実務のプロとして社内でも評判だ。家康は報告書を机に広げると、スライドで支出の詳細を映し出した。

「皆さん、現時点での資金残高を確認してください。前回の報告時点からおよそ20%の資金が減少しています。このままでは資金繰りに影響が出る可能性もあります。」

家康が静かに語ると、会議室が張り詰めた空気に包まれた。その原因をすでに理解している者も多くいたが、肝心の人物である信長はどこ吹く風といった表情で家康を見つめている。

「ところで、信長様。先月だけでかなりの出費があったようですが、こちらの『高級ワイン試飲会』とは一体…?」

信長はにやりと笑い、「それは未来の大口契約に繋がる接待だ。信長が動けば大きな利益が転がり込むと知るべきだな。」と自信満々に答えた。

「それもわかりますが、こちらの『謎の研修旅行』や、『超高級寿司』のレシートは…?」家康は眉をひそめながら問いただす。

「未来を見据えた投資だ。これしきの金にいちいち目を光らせていては、天下は取れん!」と信長は肩をすくめた。家康はため息をつきつつ、信長の出費の大きさを示すグラフを指しながら、堅実な資金管理を訴えた。

2. 社内会計会議

その翌日、社内会計会議が開かれた。家康は再び、信長が積み上げた支出明細の一覧を持ち出し、支出の削減を呼びかけることにした。この会議には、社内の要となる役員たちが全員出席している。信長が使った費用のリストが画面に映し出されると、そこには高額な会食、豪華なイベント、趣味に見える支出などが山積みだった。

「まずはこちら。『高級ディナーでの人脈作り』。確かに人脈は大切ですが、ここまでの豪華な食事が必要でしょうか?」家康が問いかけると、会議室にいた秀吉も一瞬息を飲んだ。

信長は腕を組みながら不満そうに家康を見た。「わしに必要な資金は何でも出すべきだ。それが信長たる者のやり方だ。お前も小銭のことなど気にするな。」

しかし家康は譲らない。「ですが信長様、ここには信長様が嗜んだと思われる特別料理代も含まれています。会社の成長に直接関わる投資かと問われれば疑問が残ります。積み重なる浪費が、会社の未来を危うくしかねません。」

信長は一瞬、言葉に詰まるも、すぐに反論した。「現代の戦場もまた厳しい。ビジネスの世界で生き残るためには、この程度の投資は当然だ!」

秀吉は二人の言い合いに耳を傾けていたが、どちらの言い分も一理あると感じていた。家康は家康で、理詰めの経営論で信長を説得しようとするが、信長はその都度「未来への投資だ」「天下を取るためには必要な経費だ」と押し切るばかりだった。

3. 信長と家康のディスカッション

会議終了後、家康はついに信長に直接意見することを決意する。信長とone on oneで改めて資金について話を持ちかけた。

「信長様、このままでは資金が尽きるのも時間の問題です。せめてもう少し、支出を抑えることは考えられませんか?」

信長は面倒くさそうにため息をつきながら、「どうしてわしがこんなことでいちいち考えなければならん?家康、お前がしっかりと資金管理すれば良いだけの話ではないか。」

「しかし、信長様。」家康は冷静に言葉を続けた。「無駄な支出が積み重なれば、いずれ経営に致命的な影響が出る可能性もあります。信長様が将来を見据えているのは理解していますが、成長のための資金が必要な局面において、浪費は避けるべきです。」

信長はしばらく家康の言葉を考え込み、やがて深く息を吐き出した。「天下を取るために犠牲はつきものだ。それを理解しない者がなぜ天下を語れるか?」

家康は固い表情を崩さず、「それでも無駄は無駄です。天下を取るには、その資金が必要なのですから。」

4. 秀吉の仲裁

この激しいやり取りを察知していた秀吉は、社内会議室で信長と家康を再集結させることにした。二人の意見の相違は会社にとっても大きな問題となりつつあった。秀吉は二人を見渡しながら、温和な笑顔で言葉を切り出した。

「お二人とも、それぞれの立場で大変お疲れ様です。信長様は攻める経営が信条で、家康様は守る経営が信条。しかし、目的は同じ、会社の発展と天下を取ることです。」

信長が「ならば家康がわしのやり方に従えば良いだけだ」と口を挟むが、秀吉は続けて、「それも一理あります。しかし、家康様の懸念も理解できます。そこで、少し支出を抑えつつ、攻めるべきところにはしっかりと投資をするのが賢明かと考えます。」と冷静に提案をする。

「具体的には?」信長が秀吉に尋ねると、秀吉はにこりと微笑みながら言葉を続けた。「たとえば、今後の接待や人脈作りはより効果的な場所で行い、ワインや食事に関しては少しだけ控えめにしてみてはいかがでしょうか?」

家康もその案には納得し、信長も渋々ながら同意の意を示した。「わかった。しかし少しでも経費を削りすぎて、わしの影響力が落ちたらどうする?」と信長が釘を刺すと、秀吉は「その時はまた対策を講じます。まずは小さく試し、そこから学んで調整するのが良いかと存じます」とフォローする。

5. 最終確認と信長の譲歩

その後、家康は再び支出の計画を見直し、信長の浪費をできる限り抑えつつも、必要な部分には柔軟に対応する方針を固めた。信長も次第に「堅実経営」という新たな考えに少しずつ馴染んでいく。

信長は最初こそ不満げだったが、家康と秀吉の的確なフォローにより、自らの方針に微調整を加え始める。これにより、会社の資金状況は徐々に安定し、信長も「少しは堅実な方針も必要かもしれぬ」とぼやきつつも、理解を示した。

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