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28【硬派純情編】 みんなで家出

私の周りには、家がたいへんだったりいろいろな境遇の子たちがいた。

なんとなくそんな子たちが四人集まって、
みんなで家出をしようかという話になった。

それぞれ家に一旦帰って荷造りし、神社に集合することにした。
私は着替えと有金を全部かばんに入れ、誰にも見つからずに家を出ることに成功した。


集合場所に着くと、一人先に来ていた。
この子は名前を春子といい、「はる」と呼んでいた。

私は彼女を最初、なんか根暗そうな奴がいるなと思っていたのだが、
聞くと向こうも同じように思っていたようだった。


しばらくして、全員が集合した。
私たちは、あたりが暗くなってもその場で何だかんだ喋っていた。
なんの計画もなしにただ出てきたので、行くところもない。

そのうちお腹が減ってきたので、なんか買いに行こうということになった。
今みたいコンビニなんてなかったので、繁華街の方まで行ってスーパーでパンやらおにぎりやらを買って外で食べた。


そろそろ、寝る場所を確保しなければならなかったが、この人数が寝られる場所は簡単に見つかるわけもなく、ただ繁華街をぶらぶらと歩いていた。


どのぐらいそうしていただろう。
歩き疲れてきた頃に、「電話しよう」って誰かが言い出した。
私とはる以外の二人が公衆電話を探しに行ったので仕方なくついていく。


私たちは前を歩く二人から少し距離を置き、黙って歩いた。
前の二人が公衆電話を見つけると、はるがカバンから何か取り出した。

ナイフだ。

「帰るぐらいやったら死ぬから」
(こいつ本物や!)

「まあまあまあ、一旦落ち着こう。 ほらナイフしまって、な。」
はるの手を握りながらそう言うと、はるはナイフをカバンにしまってくれた。



公衆電話に入った二人は家に電話しながら泣いている。お母さんと話したようだ。
(泣くぐらいならなんで家出したんやろ。そんな幸せだったら帰ったらええやん)

「迎えにきてくれるって」
「ほうか、帰ったらええ」
(私は帰らんけど)


しばらくして電話した二人のお母さんたちが迎えにきた。
二人は「お母さん、ごめんなさあい」と泣いている。

少し離れてその様子を見ていると、
私とはるのお母さんと担任の美沙恵ちゃんまで来た。

「えっ、なんで?」
と思うと同時に、はるのお母さんがはるを見つけ、駆け寄ってきた。

お母さんは、泣きながら一生懸命説得している。
はるはお母さんには優しいから、カバンの中のナイフを出すことなく、
お母さんのためにしょうがなく帰った。


どうやら家出したことがわかって大騒ぎになったらしく、学校とみんなの家とで集まって連絡を取っていたらしい。彼女らが家に電話したことで一斉に伝わったというわけだ。


うちのお母さんはというと、
「なんでひーちゃん、そんなことすんの」とか人前では半泣きで言っていたが、
よそのうちの子みたいに可愛くない私の態度を見ると、私の首根っこを引っ張って車に連れていった。

「恥かかせんといて!」なんて言いながら。
(あー、怖いこの人)


そんな感じで最初の家出は解散した。


帰ってから私が家族みんなからボコボコにどつきまくられたのは、
言うまでもない。


つづく


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