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第8回 川島さんの豹変

三年生の時の担任の伊藤先生は、私にはものすごい意地悪な先生だった。

この頃、川島さんという女の子が東京から転校してきた。

この子の関東弁が私はどうも気に食わなかったが、別に人がどうしていようとどうでもよかった。

私はいつも一人でポーっとしていた。



このクラスには、ちひろちゃんという知的障がいを持った女の子がいたのだが、
川島さんと瀬戸さんという女の子と二人でちひろちゃんのお世話をして、
いつも話しかけたり、手を繋いであげたりしていて、偉いなあと思って見ていた。


ところが、この川島さんは、先生が見ていないところで豹変した。

先生がいなくなった途端、
「触らないで! 汚い」と真逆の態度に変わるのだった。

ちひろちゃんは「え?」と訳がわからない。


楽しく遊んでくれていたから、一生懸命追いかけていた訳だが、
「汚ーい、追いかけてくんなーキャハハー」みたいに、いわゆる「いじめ」だ。


また先生が戻ってくると「ちひろちゃん行こうー」とか手を繋ぎに行って言う。


私はずっと見ていて「吐きそう」と思いながら、
「こいつは一回、ギャフンと言わしたらなあかんな」と思った。


先生は、優等生に見える川島さんをエコ贔屓してとっても可愛がっていたので、
ちひろちゃんをいじめていることを誰が言っても信じなかった。



このクラスにはもう一人、北島くんという発達障がいを持った男の子がいた。

当時は発達障がいについての理解は今ほどなく、
よっぽど重度でなければ、発達障がいと認められなかったようで、
北島くんは、時々支援学級に行っていたものの、ほとんど私たちのクラスにいた。


川島さんはこの子にも先生のいないところで「汚ーい」とかいつもやっていた。

相変わらず先生の前では、北島くんのことも手伝うし、
誰かが「汚っ」とか言おうものなら、
「差別です! そんなことしちゃいけないんです!」なんて言う。

先生も「そうですよ」なんて二人でやってる。

私は「こいつよう」と思って見ていた。


ある日、私は決行することにした。

放課後、川島さんが帰ったのを見計らって、川島さんと北島くんの机を入れ替え、気付かれないように引き出しだけ元の場所にある机に移した。

北島くんにはちょっと申し訳なかったのだが。


次の日の朝、(学校行くのが楽しみだった前夜と朝はこの時だけだった)
川島さんが教室に入ってきた。

私は自分の席から、川島さんの様子を観察した。

彼女は、まったく気付かない様子で普通に席に座った。

いつも汚い、汚い言っていた机な訳だ。
(確かに鼻くそつけたり、よだれ垂らしたりしてたけど)

私はそれを見ているだけで痛快で、笑いをこらえるのがやっとだった。


そんな中、彼女はまた偉そうなことを言っていじめ始めた。

「あかん、こいつは制裁や」と思うと同時に私は動き出した。

彼女の席のそばに立ち、
「自分、ようその机触ってんな、やっぱ汚くないよね」と言った。

彼女は「何が?」と意味がわからない。

説明すると、ガタンと音を立てて立ちあがり、
「もう座れなーい、うえーん」と泣きだした。


ちょうどそこに先生が来た。
どうするのかと思って見ていると、先生の前でも立ったまま泣いていた。

「川島さん、どうしたの、座んなさい。どうして泣いてんの?」

「座れないんですぅ」

「なんで座れへんねん! なんか言ってみろ!
みんなの前でなんで座れへんか言え、先生に言え!」

「北島くんの机がぁ……」

「そうやって差別してんのお前やろ!」


という感じでいじめたことがある。一度だけ。
(あー スッキリした)


北島くんはその間、ばつの悪そうな顔をしながらずっと立っていた。
(すまん、北島、ごめんなさい)


そしたら先生が、「星野さん! 前に来なさい!」と言うので前に出ると、
左右のほっぺたをギューっと思いっきりつねられた。(痛いいー)

真っ赤になった。

でも、謝る必要はないと思って、先生にも川島さんにも謝らなかった。


北島くんにだけ、
「ごめんな、でも普段ずっと嫌な思いしてる、それはもうなくなると思うから、
ごめん」
と謝った。


最後までこの先生にはいじめ倒された。

家庭訪問で家に来た時も、ぼろっかすに言われた。

先生が帰った後、ママが怒り沸騰して私に来る。


やってしまったと思いながら、ママの怒りに耐えた。


つづく

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