第10回 レンちゃんにそっくり
私はこの頃から、ママと呼べなくなっていた。
お母さんとも呼べず、なんて呼んだらいいかわからなくて「なあ」とか「ちょお」とか呼んでいた。
本当のお母さんのことを知ってしまったからなのか、よくわからない。
学校に行く日は毎朝、お母さん(便宜上こう書く)が髪を結んでくれた。
「この髪はレンちゃんにそっくり」
「あんたのお母さんにそっくりやわ」とよく言われた。
関係が悪化してからは、この言葉に憎しみのようなものが込められているように感じた。
「固くて多くて、言うことを聞かないこの髪」
ゴムで縛るときにギューギュー引っ張りながらいつも言っていた。
「この手もレンちゃんにそっくり」
ずんぐりむっくりした太くて短くて綺麗じゃない私の手。
霜焼けができてパンパンの手を、洗面器のお湯の中で無理やり揉まれる。
痛くてたまらないから大泣き。
小学校の低学年の冬は、そんなことがよくあった。
つづく
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