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Chigi写本

北イタリアにシエナという町がある。この町を支配してきたのがキージ家であり、そのキージ家が所有していた写本をChigi写本と呼ぶとしよう。写本は1918年にイタリア政府によって買い上げられ、ヴァティカン宮殿の図書室に所蔵された。その中に一連の音楽写本が見られる。


それが校訂されされて、CORPUS OF EARLY KEYBOAD MUSICのなかの1シリーズとして出版された。この出版によりChigi写本の一部を現代譜の形で見ることができる。
ここで先回りしてどのような音楽か聞いてみることにしよう。

出版されたChigi写本は3冊のシリーズとなっていて、1冊目はLiturgical and Imitative formsが収められている。


目次を見ていくと最初に2つのversetteがあり(ただし、versetteは変奏されるので曲の数としては2曲よりも多くなる)その後に3つのオルガン ミサが来る。その後にはCanzonaやRicercareなどのimitativeな楽曲が並ぶ。


それらはいずれも比較的簡単な構造をしており、17世紀の音楽についてちゃんとした素養を持たない私のような人間には入門としてとても都合のよいものに思われた。それらはFrescobaldiやFrobergerの楽曲のように難しくないし、複雑すぎない。1冊目の曲はいずれもオルガンによって演奏されたと思われるが、それにふさわしい響きを感じることができた。


2冊目はToccatas, Dances and Miscellaneous formsと雑多なものが収められている感じである。


1曲目のtoccataはペダルを持つオルガンのために書かれている。17世紀のイタリアではペダルを持つオルガンはかなり少なく(現代の調査でも2つ以上の鍵盤を持つ楽器はかなり少ないそうである)、それなりの大きな教会のオルガンのために作曲されたと考えられる。versetteが比較的単純な形式で書かれているのを見るとこの曲集が練習曲集のような存在であるかと思われてきてしまうのだが、この1曲をみても腕の立つオルガニストに向けての曲集であることが理解できる。
私の他の記事(THE ORIGIN OF THE TOCCATAやtoccata個人的まとめ)でも示したように、toccataはオルガン ミサの重要な構成要素であり、もしもオルガン ミサに関わる楽曲を1冊にまとめるならば、当然toccataも1冊目にまとめられるべきであったのだが、それでは1冊目と2冊目の厚さが違いすぎてしまうというような事情もあったのだろう。



2冊目には聖体奉挙の時に演奏されるような宗教性の高いものも含まれているのだが、少し残念な気がする。

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