タンパク質
★タンパク質
「 What I cannot create、 I do not understand。(本当に理解しているならば作れる。作れないならば、理解していない。)」。
これはノーベル賞受賞者(ファインマン)の言葉。
生物は未だに作れないので真に理解できていない。
しかし、生物を化学物質と見なせば話は違う。
大抵の物質は作ることができるからだ。
つまり、生物は物質、機械論的に理解可能と言える。
ということで、生物を化学物質や装置の観点から理解する。
基本となる視点はやはり構造と機能である。
・ 細胞の化学組成
細胞を構成する化学成分の組成。
細胞を化学物質から成る機械と見なせば、生命活動に必要な装置やその動力源があるはずである。
細胞の化学組成を見ると水の次にタンパク質が最も多いことが分かる。
すなわち、細胞を形作る主成分はタンパク質であり、これが細胞の基本的な部品と予想できる。
では、それらの部品を組み立てたり動かしたりするための動力源は何であろうか。
これは組成なんか考えなくてもご飯、すなわち呼吸の際に利用される脂質や炭水化物だと容易に想像できるだろう。細胞もご飯が必要なのである。
ただし、細胞膜の成分がほとんど脂質であるため細胞の化学組成を眺めると炭水化物より脂質が多くなっている。これは少し以外かもしれないがそれだけ膜の重要性が細胞の場合は高いということを示している。決して、太っているわけではない。
・ タンパク質のはたらき
様々なタンパク質が生命活動において部品や装置として機能する。
構造、すなわちその形がそれぞれの働きにおいて重要である。
様々な働きに関与するタンパク質
・ 筋肉の伸縮…
アクチン、ミオシン
・ 細胞膜での情報伝達、物質交換…
受容体、MHC、チャネル、ポンプ
・ 体液性免疫…
抗体(免疫グロブリン)
・ 赤血球による酸素供給…
ヘモグロビン
・ 代謝(同化・異化の促進)…
酵素
・ 皮膚の張りや生体防御…
コラーゲン(真皮)、ケラチン(角質層、毛)
・ タンパク質の構造
アミノ酸が多数結合した鎖上の分子で、水溶液中では分子間力等の影響で折りたたまれ複雑な立体構造を形成する。
つまり、20種類のアミノ酸がどのような順番でつながっているかに応じてその立体構造が異なり、機能も異なる。
そして、このアミノ酸の配列は遺伝子の塩基配列に対応している。
すなわちタンパク質の構造は親から遺伝するということである。
(タンパク質レベルで親に似ている! ⇒ 重要なイメージ、感覚)
*アミノ酸がペプチド結合でつながった分子を化学ではペプチドと呼ぶ。
多数のアミノ酸が結合したものをポリペプチドと呼ぶ。
また、タンパク質(ポリペプチド)の構造には階層性があり、
一次構造 ~ 四次構造まで分けて考えると理解しやすい。
*階層性のイメージ…
層別の構造で、1軍、2軍みたいなヒエラルキーのイメージで良い。
(同じ人間なのに1軍はレベルが違うみたいな感じ)
全体で共通の部分と各層に特徴的なルールや性質を持っている。
①一次構造…
アミノ酸配列のこと。
②二次構造…
α ヘリックス、β シート構造等のポリペプチドの部分構造。
(ペプチド結合部分の水素結合により形成される構造を指す場合が多い)
③三次構造…
1つのポリぺプチドが形成する立体構造
(二次構造だけでなく側鎖間の分子間力により形成される全体構造)
④四次構造…
三次構造をとったポリペプチド同士が組み合わされて生じる立体構造。
三次構造をもった各ポリペプチドをサブユニットと呼ぶ。
●タンパク質の立体構造とはたらき
タンパク質の立体構造はどのように生み出されるのだろうか。
細胞内に小さな小さな職人さんがいて、せっせと働いているのだろうか。
小人の存在を仮定せずに科学の言葉で説明しようとするならば、構造は物理や化学の法則に従って生じるはずで、またそれは一次構造の違いに応じて、違いを生み出す仕組みになっているはずである。
例えるなら、条件の少しの違いで様々な雲や風景が生まれるようなイメージである。
このような細胞内でタンパク質の構造が自発的に作られる現象、仕組みを発見者にちなんでアンフィンゼンのドグマと言う。要するに、タンパク質はエネルギー的に安定な形に勝手に変化するという考え方である。
当然、条件の変化や他の物質との相互作用が起こればエネルギー的な極値、分子間力などの塩梅が変化する。その結果、構造が変化する。要するに、かっちり固まった構造というより結構柔軟でしなやかな構造なのだ。
タンパク質の様々な機能は、このような柔軟でしなやかな構造が、条件や働きに応じて変化することにより可能となる。これも大事なイメージである。
・ 酵素…
化学反応を促進する生体触媒。
タンパク質から成り、基質特異性を示し、活性化エネルギーを減少させる。各酵素の活性部位が反応させたい特定の物質(基質)を運よく捕えると、酵素の立体構造が瞬間的に変化することにより、結合した基質の分子構造がねじ曲げられ、物質は不安定になり変化しやすくなる。その結果、基質の化学変化が生じる頻度が増加する。
・ シャペロン…
卵を熱すると卵白のタンパク質の立体構造が崩れ固まる(熱変性)。
これは立体構造が異常なタンパク質同士が集まって凝集するためである。
このような状況は細胞内部でも生じている。細胞内部には大量の物質が存在し、熱及び物質間の相互作用で異常なタンパク質が生じるのだ。では、なぜこれらが細胞内で凝集し細胞が固まらないかというと、それらを防ぐタンパク質が存在しているためである。これらの分子を総称してシャペロンという。
・ フィードバック調節…
酵素の場合だと、一連の酵素反応によって生じた生成物が、その上位、もしくは上流に位置する酵素の働きを調節すること。生成物が酵素の働きを促進する場合、正のフィードバック調節、逆の場合を負のフィードバック調節という。酵素以外でも様々な生命現象に同様の仕組みが見られる。
・ アロステリック酵素…
活性部位以外の箇所(アロステリック部位と呼ぶ)に、基質以外の物質が結合してタンパク質の立体構造が変化し、機能が調節される酵素のこと(負のフィードバックなどに利用)。また、タンパク質に他の物質が相互作用し、その機能を変化させることをアロステリック効果と呼ぶ。ヘモグロビンなどで見られる。
・ ヘモグロビン…
4つのサブユニット(α 鎖、β 鎖が各二個)から成る。
一つのサブユニットに酸素が結合すると4次構造が変化し他のサブユニットにも酸素が結合しやすくなる。逆にサブユニットから一つでも酸素が離れると、4次構造が変化して他のサブユニットからも酸素が解離しやすくなる。
●シグナル伝達…
情報伝達などでもタンパク質が利用される。特にリン酸化や脱リン酸化などのタンパク質への修飾を介した構造の変化が重要である。