いろいろなタンパク質
★恒常性に関わるタンパク質
恒常性(体液の状態維持)の破綻は病気、ひいては死につながります。
したがって、それを防ぐための機能や構造が体内には備わっています。
・ ヘモグロビン
赤血球に含まれ酸素の供給を行う。
酸素解離曲線はS字型(シグモイド)曲線を描く。
これはアロステリック効果によるもの。すなわち、酸素がサブユニットに結合すると4次構造が変化し、機能が変化する。
・ ミオグロビン
筋細胞に含まれ、酸素の貯蔵を行う。
ヘモグロビンの1つのサブユニットに相当するような構造をしている。
酸素濃度が急激に低下した際に酸素を放出する。
・ 血しょうタンパク質
血清アルブミンが大部分を占める。
これは血液の粘性や浸透圧の調節、微量元素やホルモン等の物質運搬及び貯蔵に関わる(難溶性物質や高分子化合物などを運搬、保持する)。
また、毒成分の中和作用もある。フィブリノーゲンは血液凝固を行う。これらは主に肝臓で合成される。
・ フィブリン
フィブリノーゲンの一部が切り離されて生じるタンパク質。
多数結合してフィブリン繊維となり、血ぺいを作る。
・ 抗体
B細胞が抗原となる病原体を除去、中和するために放出するタンパク質。
各B細胞は1種類だけの抗体を作り、細胞ごとに作用する抗原が異なる。
理論上、体内にはあらゆる病原体に作用できるB細胞が存在している。
各抗体は2か所の可変部を持つ。
1個の抗体分子は2つの同じ抗原と結合することができる。
・ HLA(ヒト白血球抗原)
抗原提示を行う膜タンパク質。別名はMHC。
多型が非常に多く個体ごとに構造が異なる。
自己の認識(免疫寛容等)に関わる。
イメージは血液型のような感じ。ただし、ほぼ全細胞に存在する。
★筋収縮と物質輸送に関わるタンパク質
運動に怪我は付き物です。
とくに骨格である骨が折れると骨格筋がうまく機能できません。
実は、体同様に細胞の伸縮やその運動の異常にも細胞内の骨格が関わっていることが知られています。やはりその異常は様々な病気の原因となります。
・ 筋肉の種類
①骨格筋(横紋筋、多核、運動神経支配)
②心筋(横紋筋、単核、自律神経支配)
③内臓筋(平滑筋、単核、自律神経支配)
●骨格筋
骨についている筋肉。
数ミリから数十センチの細長い筋細胞(筋繊維)が束になった構造。
(長いのは細胞が融合しているため)
顕微鏡で観察すると明るい部分と暗い部分から成る縞模様がある。
横紋筋と呼ばれる。
・ 筋繊維
細胞融合で生じる多核細胞。
内部に筋小胞体や筋原繊維と呼ばれる細胞小器官が発達。
筋原繊維は細長く収縮する。それに伴って、筋繊維も収縮する。
・ 筋原繊維
構造は約3μmのサルコメアという構造の繰り返し。
・ サルコメア
両端にZ膜と言う構造を持ち、顕微鏡下ではZ膜周辺が明るく見える。
一方、中央部分は暗く密な構造である。
それぞれ明帯(I帯)、暗帯(A帯)と呼ばれる。
さらに、細胞骨格の一種であるアクチンが明帯に分布する。
そして、ミオシンと言うモータータンパク質が暗帯に分布している。
●骨格筋の収縮
・ 滑り説
ミオシンフィラメントがZ膜につながるアクチンフィラメントを引き込み、両側のアクチンフィラメントが暗帯に滑り込み、収縮が起きるという仮説。
ATPのエネルギーを利用してサルコメアが収縮すると、サルコメアから成る筋原繊維が収縮し、次いで筋原繊維を持つ筋繊維が収縮する。
大きく3段階から成るモデルで理解できる。普段は筋肉が勝手に収縮しないようトロポミオシンがアクチンフィラメントとミオシンの相互作用を防いでいるというのがミソである。
①デフォルト状態
デフォルト状態の時、トロポミオシンの作用でミオシンはアクチンと相互作用できない。
②情報伝達
中枢神経から運動神経等を介して情報伝達が行われると、筋小胞体がCa2+を放出する。その結果、トロポニンとCa2+が結合するという現象が生じる。
するとトロポミオシンの構造が変化し、アクチンフィラメントとミオシンの相互作用が可能な状態になる。
③収縮
ミオシンとアクチンが相互作用する。ミオシンはATPのエネルギーで頭部を動かし、その結果、アクチンが暗帯部分に滑り込むことで筋収縮が起こる。
★生体膜を介した物質輸送
細胞膜と細胞小器官等を構成する膜を合わせて生体膜と言う。
基本的に細胞膜の輸送と同じ仕組みで物質のやり取りを行う。
・ 輸送に関する膜タンパク質…
チャネル (アクアポリンやナトリウムチャネル)
担体 (キャリアー)(GLUT:グルコーストランスポーター)
ポンプ (ナトリウムポンプ)
●細胞内の物質輸送…
溶液中の物質は拡散で移動する。
移動距離が極めて短い時は即座に運ばれる。だが、距離が1mm くらいで、10nm のタンパク質は移動に約3時間かかるようになる。
これでは細胞(特に神経細胞)は上手く機能できない。
よって細胞内には細胞骨格を基盤にした輸送システムが存在している。
・ モータータンパク質を利用した輸送…
ATPのエネルギーを利用して微小管やアクチンフィラメントの上を移動するタンパク質を利用する。それらが様々な物質や細胞内構造体と結合できるため、貨物列車のように細胞骨格に沿って物質を輸送する。
①微小管に沿って移動するモータータンパク質…
キネシン(微小管の伸長する末端方向に動く)
ダイニン(短縮しやすい末端方向に向かう)
微小管には極性(伸長する末端と不安定で短縮しやすい末端)がある。
各モータータンパク質は相反する方向に動く。
これらは分裂時の染色体移動や小胞輸送、鞭毛運動に関わる。
②アクチンに沿って移動するモータータンパク質…
ミオシン(ただし複数の種類がある)
細胞質流動や筋収縮に関わる。
細胞質流動ではミオシン頭部でアクチンの上を歩くように移動する。
筋収縮ではミオシンフィラメントが固定されているため、ミオシン頭部を利用して結合相手のアクチンを動かす。
アクチンフィラメントにも極性がある。
多くのミオシンは伸長する側の末端方向に向かって動く。
★情報伝達と細胞接着に関わるタンパク質
多くの生物種では時代とともに巨大化が起こっている(コープの法則)。
強く複雑な体を手に入れるため巨大化が起こったと考えられている。
では、体を大きくするためにどうすればよいだろうか?
生物の出した答えは多細胞化である。
なぜなら細胞自体を大きくすることは物理的・化学的に困難で、それ自体を根本的に作り変えなければならない(進化は絶えざる追加、修正であり、無から有を作り出すわけではない)。
とはいえ、分裂による多細胞化ですべてが解決するわけではない。
こちらはこちらで細胞同士をまとめ、統率する必要がある。
そのため、細胞間のコミュニケーションや細胞間をつなぐ装置が発明された。これが情報伝達物質や受容体、細胞接着分子である。
以下では関わるタンパク質を紹介する。ちなみに、いくつかの病気では細胞の数が少ないため低身長になるものが知られている。
●細胞間の情報伝達
情報伝達には大きく3つの方法があるが、基本は同じである。
命令者が情報(信号となる分子)を特定の細胞(標的細胞)のみに知らせる。これは信号となる分子と細胞膜上の受容体が結合、相互作用することで行われる。
・ 神経細胞による情報伝達
活動電位に伴う活動電流によって細胞を介して情報が運ばれる。
隣接する神経細胞部分(シナプス)では、情報は神経伝達物質により伝達される。この過程は次のような段階を踏む。
⑴ 軸索の末端まで電流が流れる、
するとその刺激が起点となり、神経伝達物質が末端から放出される。
⑵ 神経伝達物質が標的細胞の受容体に結合(相互作用)する。
⑶ 神経伝達物質の受容体は、伝達物質依存イオンチャネルである。
これは膜タンパク質の一種であり伝達物質が結合すると構造が変化する。
そのため、物質が結合している間はチャネルが一時的に開く。
⑷ 標的細胞のチャネルが開くとナトリウムイオンが細胞外から流入する。
その結果、活動電位が生じる。この頻度は伝達物質の量に依存する。
したがって、伝達物質が多く放出されると高い頻度で活動電位が生じる。
そうすると、軸索にも活動電位が生じるので、興奮が伝導していく。
●細胞接着とタンパク質
多細胞生物の場合、細胞は様々な種類に分化している。
そして、それらは直接あるいは細胞外のタンパク質等を介して集合する。
その結果、精緻で複雑な構造が作り上げられていく。
さらに、細胞同士の接触や接着は細胞間の情報伝達にも利用されている。
接着に関わる分子の多くは膜分子であり、多くは膜タンパク質である。
・ 細胞選別
個体の組織では同種の細胞が集まっている。これにはカドヘリンが関わる。
これは膜タンパク質であり、同種の細胞同士を接着させる機能を持つ。
カドヘリンには様々な種類が存在し、同じタイプのカドヘリン同士は結合することができる。そのため、異なる種類のカドヘリンを膜にもつ細胞同士を混合すると同種の細胞のみが集まった細胞塊が生じる。
これを細胞選別と言う。
ただし、カドヘリンは機能するためにカルシウムイオンを必要とする。
(カドヘリンの”カ”はカルシウムから来ている)
・細胞接着に関わるタンパク質
① 密着結合
膜タンパク質はオクルーディンやクローディン。
細胞内部でアクチンフィラメントとつながる。
② 接着結合
膜タンパク質はカドヘリン。
Ca2+が結合に必要。細胞内部でアクチンフィラメントとつながる。
③ デスモソーム
膜タンパク質はカドヘリン。
細胞内部でケラチン(中間径フィラメントの一種)とつながる。
* 似た結合にヘミデスモソームがある。
これは細胞と基底膜間の構造である。
こちらに関わる膜タンパクはインテグリン。コラーゲン等と結合する。
④ ギャップ結合
細胞間をコネキシンと言うタンパク質からなる筒のような構造が貫く。
カルシウムイオン濃度に依存して筒の中をイオン等の物質が行き来する。(カルシウム濃度が高い時に行き来が生じる)。