売れる芸人は面白い人だけど、面白かったら売れる訳ではないんだよなと思っている話
本当は昨年のM-1決勝進出者が決まった時に書きたいと思っていた。のだけど、気がつけばもう1月も終わる。今年もあっという間なんだろうな、とか毎年同じことを思ったりしている。
2024年のM-1グランプリ、決勝進出者にダイタクの名前が呼ばれた。ラストイヤーと聞いて感慨深かった。
ダイタクに関しては、ファンというわけでは無いから古参ぶる気は全くないものの、10年以上前にライブで見たんだよな、と思って確認してみたら2010年のことだった。15年前かい!
2010年のある日、私は渋谷の無限大ホールでライブを見た後に出待ちをしていた。当時は出待ちも禁止されておらず、出待ちの人に若手芸人がチケットを手売りする姿もよく見られた。その日もそうだった。
のだが、他に数人いた出待ちの人には声をかける芸人が、私のことはスルーだった。
いや分かるよ分かるよ気持ちは。20代前半くらいの人が明らかに自分より年上と分かる相手にチケット買ってくださいとか言い辛いよね。分かるよそれは。私もそっちの立場だったらそうだし。
でも、気持ちは分かるけどスルーされまくりなのはそれもそれで辛いんだよ!
となって、もう誰か声をかけてくれたら行ける行けない関係なくチケットを買おう、と思った時だった。
すみません、と声をかけられた。
声のした方を見たら、三戸キャップくんが立っていた。1、2回ネタを見たことがある程度だったが、面白い芸人さんだなと思っていた人だった。
この日にこういうライブがあって、と三戸くんは私にチケットの束を見せた。
【NSC東京14期生最強決定戦】と書かれていた。
何にせよ買うつもりではあったが、日程を見たら行ける日だったのでチケットを購入してライブへと行った。
なにせ15年前のことなのでうっすらとしか覚えていないが、出演芸人は15組以上いた。私が記憶している人達を挙げると、三戸くんの他は、ダイタク、ネルソンズ、スパイク、ヒダリウマ(解散。ひとりは現・相席スタート山添くん)がいた。三戸くん以外は全員そこで知った。
NSC東京14期生は2008年入学、2009年卒業でそこから芸人としての活動がスタートする。なので芸歴2年目とかそのくらい。私はその時代そこそこ無限大ホールや他の小さいライブ会場に通っていたが、お初にお目にかかりますという人達ばかりであったし、ダイタクに関しては生で見たのはそれが最初で最後だった(今現在)。
なのになぜ覚えていたかといえば、単純に面白かったから。
どんなネタをやったかは一切覚えていないのだが、面白かった記憶はある。面白かったので名前をうっすら覚えていたところ、後々あちこちで活躍するようになって名前を聞くようになり、あああの時の、となった次第である。
それはそう、と言ってしまえばそれまでなのだが、面白い人達というのは最初からずっと面白いのだよなと思う。
私は2009年くらいから劇場に通うようになっていたが、当時からチョコレートプラネット(その頃芸歴4、5年くらい)とかめちゃめちゃ面白かったなと思う。
また、南海キャンディーズ寄席の第1回に行った時(2018年6月)は、まだ第七世代という言葉が出来る前だったが、かが屋、四千頭身、宮下草薙が出ていた。いずれも面白かったので名前が記憶に残ってあた。その後第七世代ブームで一気に売れて、あの時の、となったりしたものである。
とか色々書いたが私は別に、この人達をこんな昔から知ってたという話がしたいわけではない。古参が偉いとも思っていないし、単に私がそのタイミングで知ったというだけだ。
言ってしまえばそれはそうなんだよなとなるのだが、売れる芸人は世に出る前から面白い。劇場で見ていて、この人達面白いなと思っていた芸人が世に出ると嬉しくなるし、ほらー! と言いたくなる気持ちにも正直なる。
なのだが同時に、面白かったら売れる訳でもないんだよな、というのも思ってしまうのだ。
最初に書いた14期生最強決定戦、実は挙げた人達以外にも覚えている芸人はいるのだが、既に解散してしまっている。芸人を辞めた人もいる。売れる芸人は実力があるけれど、実力があったら売れる訳でもない。
野球評論家の、故 野村克也氏は、『人間が絶対に勝てないものは時代と年齢だ』と言われていた。実力があっても、どんなに面白くても時代にそぐわなければ、その時大衆が欲するお笑いでなければ売れることはない。それはどのジャンル、どの時代でもそうなのだが、それはそれとして、面白かったのに勿体ない、と思ってしまう。
私が足繁く劇場に通っていた時も、面白いのに解散したり芸人を辞める人は何人もいた。家庭の事情や健康上の理由で、辞めたくないのに辞めざるをえない人も見てきた。相方が芸人を辞めるからと、突然ピン芸人になる人も見てきた。続けていたら今頃どこかで名前を聞く機会もあったかもしれないと思うと残念だけれども、人の人生や決断をどうこう言えないので、ただただ勿体ないなと思ってしまう。
なので、ダイタクが昨年のM-1グランプリ決勝に行ったのは本当に嬉しかったし、三戸キャップくんが『細かすぎて伝わらないモノマネ』に出ているのも嬉しかった。
もっと言えば囲碁将棋が売れてきたのも嬉しかったし、ライスがグリーン車になったのも嬉しかった。
面白い人達がちゃんと評価されて、お笑いだけでご飯を食べていけるようになるのは、いちお笑いファンとして嬉しい限りである。別にめちゃくちゃファンというわけでなくても、面白いと思った人達が売れてくれるのは嬉しいし、今後もそういう世界であって欲しいと思っている。
綺麗事だとは思うけれど、みんなに売れて欲しいのよ。本当に。
かの14期生最強決定戦。正直めちゃめちゃ面白かったというわけではなかったのだが、私がすごいツボに入った女性ピン芸人がいた。真っ赤なスーツを着ていた。その後コンビになってからもしばらく追っていたのだがいつしか見失ってしまい、これを書くにあたって彼女今どうしているんだろう、と思い検索したところ、芸人を辞めてしまったらしい。
そうなのかー。今どうしているんだろうな。密かに応援していたよ、ミステリーウーマン。