サイコパス・ドラッガー 31 迷宮
「次のテレパシーは何?」
「だからそれをやるだけじゃねえか〜」
「とりまセーブッ!」
日本は相変わらず平和だ。明日美は世界を救った。あれから一ヶ月の時が過ぎ、中東は反応を見せない。メビウスのメンバーは逮捕され、B’zという切札も失った。次のステージへ行った。それだけは確かだ。図書館で漫画を読みながらジュースを飲んでいる今日このごろ。周りを見渡せば皆が心の中で浮かれている。私は今日も生きている。生を実感している。イヤホンで好きな音楽を聞きながら石ノ森章太郎の世界を堪能している。グッドホルモンが出ている。私は十分に幸せだ。言い残すことは何も無い。あとは天に任せるだけ。誰かが新世界で言った。
「あとやるべきことは……っと」
テレパシーも段々板についてきた。皆が調子に乗る。それを無言で聞く明日美。黒崎が一石を投じる。
「やれやれ、地球には怖い人がたくさん居て先が思いやられるよ」
続けて言う日本人。
「そうだね。私たちが一番だもんね。外国なんてストーカーなの」
「待て、俺働きながらテレパシー出来るんだっ。お前らそれを言え」
少しざわつく。明日美の旧友が話す。
「明日美大丈夫?」
「全然平気。死後の世界を創るんじゃないの?」
「マジパシーだな」
流れる無の時間、吹き抜ける風。サイコパス・ドラッガーが勝利の宣言を高らかにした。明日美は最期のテレパシーをした。
「みんな〜新世界で会おうね〜」
「あばよ! いい夢見ろよっ!!」
終。物語は一つの結末を迎えた。ハッピーエンド。完全勝利ッ! 障害者の世界は救われた。私が救った。私自身を、時代を。外国だろうがなんだろうが関係ない。神? 無? 私たちはそれ以上だ。オールクリア! セーブッ!
「みんな〜明日美だけどさ、ゲボ吐きな下痢便秘治しな」
「キムタク〜私と結婚して〜♡♡」
「誰か俺と戦え」
「次のテレパシーは何〜?」
うんうん。平和で何より、最高! 日本勝ち組!! オールエンドッ! 黒崎は感じていた。これが夢のゴール。桃源郷。僕らの新世界。全て更新された。誰だって幸せになりたい、中東人、B’z、彼らだってそうだ。明日美は僕らに教えてくれた。新世界を作ってくれた。ありがとう明日美。神になってくれ。幸せになれ。他意はない。革新の確信。僕らには何色の未来が待っているだろうか……これから先何が待っているだろうか? 大丈夫。何も心配いらない。苦しいこともつらいこともうれしいことも分かち合える。所詮過去は過去。無いなら作ればいい。道なら開拓すればいい。この青い空はどこまでも続く。幸せだ……嗚呼、我が人生に一変の悔いなしっ! ってね。
「みんな幸せ〜?」
「明日美ちゃん! こっち来て飲まない? みんなも遠慮しないで!」
「よせ! 酒の上での喧嘩は見苦しいぞ」
未来は希望だ。私、東明日美は幸せな人生だったよ、パパママ。死んだら新世界で会おうね♡ 大丈夫。日本が一番だもん。そんなのプロに任せるもん。できる人がやれることをやる。それだけでしょ? ありがとうみんな。愛してる♡♡ 良かった良かった! エヘ♡ 大団円!!
幻聴の世界。明日美は世界を守った。彼らもまた幸せになる為に生まれてきた存在なのだ。神たちは戯言を言う。いつか明日美が聞いた幻聴、マボロシ。何のために存在していたのか、精神障害者の世界だったのか。でも何でもいい。そんなことどうでもいい。全ての思い出は浄化され思い出となりゆく存在。幻聴は幻聴。現実は現実。その境界線などどこにある? そんなこと誰が決めた? 明日美の過去も出来事も全ての有にバレてしまった。それでいいのだ、幻聴もまた愛しき存在。未来は薔薇色だ。愛があれば大丈夫。絶対に滅びることはない。永遠に。世界は一つじゃない、無限に存在する。この宇宙という空間にある有はただの有。全ては私に食べられるためにあるのだ! テヘ♡ 人生とは迷宮である。おばあちゃんが言っていた。この物語も誰かの手によって紐解かれるであろう。それはまた別の話。新世界は終わらない。敵は去った。東明日美の人生は薔薇色に染まっていった。
真夜中の深夜二時。都内のコンビニ店員の一人がテレパシーを送った。
「あ~ヒマッ!帰りて〜」
「誰かなんか言え」
起きている者の会話が続く。ほとんどの日本人が夢の中だ。
「新世界ってこれじゃね?」
即決。言うべきことは何も無い。その時!
「てめえら起きろ」
「何だてめえ?」
コンビニ店員は今日も気だるい。こんな輩がまだいたとは。日本は勝ち組だというのに。
「調子に乗るなっ! あんた誰!? 何者?」
流れる無の時間。どうせそういう系。無視無視。これだから日本人は調子に乗って困る。まあいいか。付き合ってあげるわよ。何か言え。
「なんか忘れてねえか?」
何こいつ。変なヤツ。それを言え。テレパシーが拡散される。
「なんだよいい夢見てたのに〜」
「謝んなさいよっ!! どこの誰!?」
「明日美。俺とテレパシーをしろ」
無。爆睡中。
「なんだてめえ!! バッドホルモン出たじゃねえかっ!! 謝れ!」
「ククク……」
物々しい雰囲気がその場に流れる。その場しのぎをやめろ。胸の画面に表示される。あ?
「お前空気読め」
「氏ね」
殺るぞこら。身内揉め。全員が風が通り過ぎるのを待っていた。一瞬。画像と気が映った。は? そういう系?? 最後の絶望が始まる。