スキゾフレニアワールド 第四話「仮面の教室」
その日、雨宮は部活を休んだらしい。帰宅部の僕に連絡が来たのは夕方過ぎの事だった。電話の内容は障害者手帳を渡してくれたお礼と、雨宮を虐めないでほしいというお願いだった。僕は雨宮の事が気になって眠れぬ夜を過ごした。夏休みの間は彼女に会うことは当然無い。其れどころか学生は当然連日の休みを楽しんでるか部活動に明け暮れるか宿題に追われるかのどれかを満喫しているに違いない。誰も彼女の病気の事を知る由も無い。僕は雨宮を思う。彼女は今何をしているのか。僕はそれを隠すのに理由は要らなかった。夏休みは彼女の事で頭が一杯だった。
吹奏楽部では雨宮の不在の中話し合いが行われていた。内容は決まっている。部員達は練習を止めて音楽其方退けで顧問の玉井先生の説教を黙って聞いていた。
「無神経過ぎよ長濱さん! 彼女にも事情があるのよ! 皆ももっと気を使ってフォローして!」
音楽室で鳴り響く怒号。静かな教室内に激情が渦巻いている。雨宮に同情して涙を流している生徒。長濱に怒りを抱く生徒。部員達は一つに成りきれずにいた。高校生活という一つの社会に現れた精神障害者という異端児は皆と異質な存在である事から当然特別視される。成績優秀、容姿端麗、才色兼備の雨宮涼子という存在はいつしか学校内に噂が広まり病気の事実を殆どの生徒が認識するまでにも時間は然程掛からなかった。こうして僕等の夏休みは終わった。夏空は眩しくて憎らしいほど輝いている。光が僕等の頭上を追い越して行った気がして成らなかった。