スキゾフレニアワールド 第二十六話「暗闇」
「ネクタイもちゃんと締めなさいよ。見られてるんだから」
「分かってるよ」
自分でも馬子にも衣装と感じている。
「スーツなんて学生以来ね。面接は第一印象が大事なの。本当に分かってる?」
「分かってるよ」
短く切った前髪を揺らして家を出る。此れからの事を思うと荷が重い。心配する母を余所に家を出た。
「行ってきまーす」
自転車に乗って五月の追い風を浴びた。無職という間柄が許せない親含め周りの者達は僕に就職活動を急かす。今日も正装と面接の日々。武器はパソコンの資格と持ち前の愛嬌の良さ。なんて言葉は柄でもなく迚もじゃ無く似合わないがこんな事では、涼子に笑われてしまいそうで怖かった。履歴書の書き方なんてネットを丸パクリ。写真はカメラ目線。当たり前の遣るべき事をやれば結果は自ずと付いてくる物。就職氷河期の爪痕は僕等の世代にも淡々と残し、大人社会への入口を手招きする。嗚呼、我が人生無常也。そんな下らない事を感じてる間にもう着いた。就活生デビュー第一戦目。よし、行こう。いざ先陣!
……まぁ、資格は十二分アピールした。言葉もゆっくり目だったが噛まずに言えた。先ず先ずの結果かな。後は日頃の行いの良さに依存っと。結果は来週……帰ろ。
「おーい!」
只来た道を帰るだけでは詰まらない。僕は川沿いの河川敷の一本道を真昼の日差しを浴びながらペダルを漕いでいた。その叫び声に気付いたのは直後だった。あの見覚え有る女の姿は……嫌な予感的中。 「どうしたの、スーツなんか着て?」
「何だ又お前か」
「成程。この間の同窓会の私達の説教が聞いたのね! 一緒に働く?」
「バーカ」
「家族と釣りしてたの! 休日に就活なんてあんたも大変ねー」
「許可降りてんだろうな」
「御心配無く!」
川沿いで其の親と呼べる者が叫ぶ。
「彩夏ー誰?」
「高校の頃の同級生! 小倉輝っ!」
「君をつけろ」
微笑ましい休日の家族の外出風景。と、部外者凡そ一名。僕等を真上の春の太陽が只燦燦と照らす。
「じゃあねー頑張んなさいよあんたっ!」
「ったく」
陽光の反射でキラキラと光る川は長濱彩夏を魅力的に見せていた。この女が雨宮涼子だったらどんなに良い物かと、想像して僕は家路に着いた。同じ高校。同じ街。ま、会っても無理無いか。昼御飯の宛を探して腹ペコだった僕は元気に挨拶する。
「只今!」
「お帰り! 遅かったわね」
当然、母が気付く筈も無い。面接の結果? 行き成かよ母さん。落ち着けって。
「彼女の容態は?」
「デパスはどうだ? デポ剤の注射も刺してるだろう」
「……分かった。眠剤を調整してみよう」
涼子の主治医は他の精神科医の先生達と連絡を取っていた。彼女の容態は是が非。治療は進む。
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