スキゾフレニアワールド 第三話「部室」
輝は涼子の秘密を知ってしまった。一枚の障害者手帳から全てを悟ったあの日以来、一言も口を利いて無い。互いの事を意識しているのか、偽りの日常を刻んでいた。クラスメイトに秘密を隠して早一週間が過ぎた二学期の夏。学校は夏休みに入り、涼子は部活動に精を出していた。吹奏楽部の部室では夏の大会に向けての最終リハーサルが行われていた。その矢先である。
「あんた障害者なの?」
涼子の背後からサックスを抱えながら同じ部員の長濱が突拍子も無く声を掛けた。その一声を周りで聞いていた他の部員達も驚きを隠せない。涼子は声を出せなかった。長い沈黙の後、続けて長濱が喋った。
「小倉があんたの障害者手帳拾ったって有名よ」
「止めなよ優香」
「今まで調子に乗ってた罰よ」
涼子は真面目で勤勉的な態度から顧問の先生や先輩達からも信頼されていた。だが同じ一年生の部員はそんな涼子に嫉妬心を抱きどこか排他的な眼差しで見ていたのかもしれない。部員達は練習を止めて会話に聞き耳を立てている。その時だった。長濱が大声を荒げて俯きがちの涼子に叫んだ。
「障害者なんてキモいのよっ! 精神病院で入院しなさいよ!」
部員全員が騒ぎ始める。其れを宥める後輩、涼子に真意を問う同級生、静かに見守る先輩達。辺りはパニックになり偶然通りかかった教師が察したのか、輪の中に入って止めに入る。教師は無言の涼子に帰宅を促す。
「雨宮さん、私に任せて帰りなさいっ!」
涼子は溢れ出る涙を見せずに部室から出た。何も言えなかった。悔し涙を堪え切れず鞄も勉強道具も部活に置き忘れたのを忘れて家まで走った。自分が障害者であるという事がどういう身分か、周りからどんな目で見られているか。確認するまでも無かった。