サイコパス・ドラッガー #16 ニンゲン

 明日美は熟睡していた。真夜中。草木も眠る丑三つ時に物々しい不穏の動き。時差の有る外国が日本では深夜の神で有る彼女とテレパシーをしたがっていたのだ。しかしその夢は叶う事無い。明日美が意識を覚まして朝起きた時にはその気も分かる。そう云う物だ。紙屑の外国人は徐々に彼女の身を理解する。有りと汎ゆる方法でお悩み相談の意味無き対話を試みて来る。しかし風は風。誰も其れを摑まえられない。鼾を搔いて寝ている呑気な神と裏腹に段々と焦り出す毛虫達。何が有ったのか。テレパシーで会話する全世界。再びパニック状態に地球は陥った。何処かの国の代表が叫ぶ。

「待て、テレパシーを閉じてくれっ! 神様は今就寝中だっ!」

 野次馬共は燥ぐ。当然耳には届かない。弱者達の世界は続く。

「明日美何か言え」

「とりま日本が一番で良いんじゃね?」

「異議無ーし」

 根も葉も立たぬ噂話。神の居ない新世界の戯言。誰がこの後始末を行うのか。此処が所謂正念場。所詮二流世界。ヨーロッパの老人がテレパシーを切った。全員気を理解した。力の無い者は事勿れ主義を貫き明日美に反感を買う者は小便をかけ陰惨な事を遣る。だが此れも無意味。後に痛覚を持たされ処刑される運命。完全に新世界は絶たれた。人間なんてこの程度なので有る。時刻は早朝四時四十四分。その縁起悪さも第一世界の醜態か。風は只吹いて去った。涙を呑む者、己の力の無さを憎む者、明日美を愛す者……様々な地球人が各々の感情を抱いていた。今日も日は廻る。全世界は明日美と云う神を肯定しつつ有った。架空戦争……。彼女の記憶が解る。そんな事して何に成る。現実で核を落とし合ったのに。第三次世界大戦が其処迄来ている。思わず息を呑む。人類が行うべき次の行動とはー。神、何か意見を。

「お早う明日美。良く寝たって顔ね」

「お母さんお早う。お父さん早いね」

 何の変哲も無いと有る一家族の朝の団欒。何時もの日常。パジャマ姿の神は寝癖を櫛で梳っていた。鏡に映るのは寝惚け眼を演ずる偽りの姿で有る。

 下衆共が。死刑!

「今日も世界が平和で有ります様に」

 其れを聞いた母は思わず嘲笑う。

「何それ、何かの宗教?」

「うん、私の心の中のね」

 東家は幸せだ。母は吹いた。太陽は働き日光を只燦燦と照らす。時計の針はゆっくり音を刻む。シアワセネイロは美しい旋律を奏で明日美の背中に神としての次の世界の烙印を押す。其処に他意は無い。

 明日美は裏の世界で笑った。火達磨に成った人形は踊り続ける、永遠に。バーカ。

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