スキゾフレニアワールド 第三十話「全員」
LINEの会話なんて珍しい。あいつから来るなんて、天地滅びる前触れかも。其れでも同窓会の時に結成したグループLINEは私達の大切な意見交換の場のツールだ。何の重荷も背負わず気取らず、仕事の愚痴や現状の不満、報告、恋愛相談etc……有りと汎ゆる言葉の文章が飛び交っている。梅澤のお母さんの葬儀には私は出席出来なかったけど、その後の飲み会の席では彼女の事を触れたみたい。雨宮涼子。統合失調症で高校中退し支援学校に移った女子生徒だ。正直良い思い出は無いけど小倉との恋バナを聞いた以上、女の意地にも賭けて応援してあげなくちゃ。菓子折りと千羽鶴と皆の寄せ書きの色紙。これだけあればあの子も元気になる事間違い無し? なんちゃって。そんな事考えてるうちに、家の前に迎えが来た。梅澤の車ね。
「彩夏。来たわよ」
行って来ますとお母さんに言って私は車に乗った。
「先週納車したばかり」
「天国のおばさんも喜んでると思うわよ」
「そうだな。行くぞ」
見慣れた街。皆が育って来た街。これから行く先にあの子が居る。短い面談時間でも想いはしっかりと伝えなくちゃ。先ずは謝罪。そして理解。和解。あの子の方が頭良いんだもの、分かってくれるよね。走行してる内に小倉の実家に辿り着いた。私に続く二人目の乗客。
「長濱! 涼子に粗相な事言うんじゃねーぞ」
「行き成り其れ⁉ 相変わらずラブラブね!」
「大丈夫さ輝。皆大人だよ」
僕等を乗せた車は病院へ辿り着いた。此処へ来る前の会話は僕等の惚気話が大半であり梅澤も長濱も顔を緩めて僕の話を只聞いていた。
平日とも有って他のクラスメイトは仕事や新生活也で来れなかったが、グループLINEを通じて何度か会合しその時に寄せ書きの色紙も用意した。此れなら上手く行く。僕の打算は完璧だった。
面会室には僕等三人よりも早く顔馴染みの級友達が数人待っていた。全員集合。皆が涼子の姿を見たがって居た。
「お待たせっ!」
皆が彼女に歩み寄る。ナースは此れ見よがしに仲介に輪の中に入る。相手は飽く迄病人。僕が周りを宥め涼子に容態を聞く。見たところ肌の血色も良いし三度の飯には喉を通しているみたいだ。長い黒髪を結んでポニーテールを揺らす姿はあの頃の高校生活を彷彿とさせる。シンプルな部屋着のワンピースは親が新調してくれたに違いない。僕等は菓子折りと皆で折った千羽鶴と色紙を彼女に渡した。彼女は目に光る物を滲ませて言った。
「有難う皆……私頑張る。絶対病気なんかに負けない。また退院して皆と一緒に遊びたい……」
長濱がその泣き声を聞いて思わず抱き寄せた。おいおいこの女、こういう時でも。僕の心情を察した梅澤と友達は仕切り直しと言って僕の言葉を只待った。
「頑張る必要ねえぞ。お前のペースで良い。無理するなよ、涼子」
「有難う輝。皆も元気でね」
こうして面談は終った。皆も心做しか晴れやかな笑顔を浮かべて満足気だ。長濱の奴まだ泣いてんのか。でもまあ、仲良くなって良かった。此れで少しでもあいつのプラスになれれば良い。僕等は解散し、思い思いの夜を過ごした。涼子。早く元気な姿を僕達に見せてくれ。僕は夢の中で何時迄も其れを願っていた。何時迄も。