サイコパス・ドラッガー #06 爆弾
昼寝から起きた私は其れを試みた。チャンネルの回路を合わせる。こんなの気だ。世界平和と夢への次なる行動は……と。
目的はたった一つ、新世界と云う第二世界の創造だ。ストレス解消と優越感に浸る事実は明白だが、てへ。
「何か言え」
都内の遊園地ではメリーゴーランドや観覧車等遊具に乗った客がテレパシーの事など感じる筈も無く楽しんでいる。その時だった。物々しい園内放送が響き渡った。
「お客様! たった今此の遊園地内に爆弾を仕掛けたという犯人からの情報が入りました、直ちに避難して下さい‼ 繰り返します!」
悲鳴飛び交う現場は大混乱だ。其の情報は嘘か真か。真相も分からぬまま誰もが命を守る為に自分の事だけを最優先にして逃げ回る。園内の事務室では犯人との電話の会話が行われていた。騒然とする中園長は命懸けで言葉を選びながら震える声を出していた。
「悪戯なら止めなさいこんな事! 君のしていることは立派な犯罪だ!」
「……」
「聞け! 私はお前には断じて屈しない! 爆弾で此の生命が散ろうと園長としてのプライドが有るんだ‼」
「……」
「なっ⁉」
長き沈黙を破り、犯人らしき男が言う。
「嘘だバーカ」
「⁉」
「仕事にむしゃくしゃして腹癒せで思いついた。俺は人生絶望の障害者だ。鬱病だ。爆弾なんて出鱈目だ」
「何だと⁉ 巫山戯るなっ‼」
「バーカ。死ね」
一方的に切れた電話に園長は激怒していたが、人っ子一人居ない園内を其の目で見て溜息を思わず吐いた。
カーテンを閉めた薄暗い部屋にスマホ一台。先程の犯人である。男は二十代の中性的な出立ちの美青年だった。電源を切って園長からの返信を断絶した彼はスマホを投げて目を閉じる。
「こんな世界滅んじまえ」
テレパシーを受信した。
「馬鹿じゃないのあんた? そんな事して何になるの?」
「……?」
突然の出来事に声が出ない青年は、只明日美の声を聞く事しか出来なかった。其の場が凍り付く。テレパシーは続いた。
「あんた自首しなさい。警察の捜索網舐めんじゃないわよ」
「お前に俺の何が分かる」
「犯罪者に明るい未来なんて無いのよバーカ。負け犬」
「何だと……」
「私の世界で生きなさい! 罪はちゃんと償うのよ。良いわね?」
「待て」
「何よ」
「そんな事本当に出来るのか?」
少しの沈黙の後明日美が口を開く。
「あんたに出来ない事が私に出来るのよこの御短子茄子」
強引に切ってやった。一生遣ってろ馬鹿野郎。テレパシーにも慣れてきた私は生欠伸をして大好きな趣味の時間に移る事にした。アニソンでも聞こう。うんうん。
自称爆弾魔の美青年は明日美の事を思っていた。本当に新世界なんて存在するのか。否、先程の会話こそがもう其れか。自分は刑務所へ行く、其れだけは確定の未来だ。でも……。
軽く舌打ちをして自首の言葉を考える事しか出来ない今の自分を恥じていた。もうすぐ世界が終る。いや、始まるのか、彼女の新世界が……。
その未来を心待ちにして安らかに眠った。サイコパス・ドラッガーが闇の中で微笑った。誰も気付く事は無いだろう。
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