スキゾフレニアワールド 第二十二話「風」

「彼女は持病が悪化したんだな?」
「そうだ。しつこいぞ」
「イギリスの方も色々有るんだ。君とは不思議な縁を感じるよ。輝君」
「不必要な電話は止めろ。精神病棟で隔離されてる身だ。俺もあれから一言もLINEは送ってない」
「解った。それじゃ僕も仕事があるから……」  電話を切られた僕は正直困惑していた。何やら誰かの掌の上で踊らされている運命染みた物を只感じていた。この状況でこのタイミング。運が良すぎる。しかし、先程の守屋という男も同じ病気じゃらしいじゃないか。雨宮が支援学校に居た頃に付き合っていた彼からの急な連絡。それは雨宮にとって絶望の報告、遠距離恋愛の終焉の提案。その真意はまだあいつに伝えていない。僕だけに教えてくれた事実。其れをしっかりと受け止め、物事を次に進ませなければ成るまい。誰しもが思っている事だ。彼等精神障害者の統合失調症は彼等なりの結束感がある。画家の卵か何だか知らないが、僕には僕の意志が有る。僕だけの光り輝く物が有る。守屋とかいう男と雨宮の恋人同士の恋愛解消……僕にとっては都合の良い喜びでしか無い。僕の知らない所で障害者の傷の舐め合いが生じていた様だ。だが、それも過去。今と成ってはステージのエリア其の物が違う。守屋からのメッセージを受信した僕は其れを心の中に留め入れ奥底の引出しに閉まって置くことにした。今、その事実を彼女に伝えたらまずい。もう一度心の傷跡にダメージを与えてはならない。彼女の心情を察するべきだ。きっとこの話を聞いた雨宮なら僕の愛情を求めて来る筈だ。そうとも。僕等は両思いだ。僕の方が勝つに決まっている。過去の執念に囚われるほど間抜けでも無い。彼女が心の余裕を取り戻したらきっぱりと別れさせるべきだ。イギリスと日本なんて遠すぎる。それに、守屋は言っていた。これから画家として本気で生活していく為にも日本にはしばらく帰れそうに無い。それで二人の恋愛関係は終わりだ。僕は笑った。今度は嘲る笑みで。雨宮。其の恋愛は失敗だ。お前には心の底から同情する。だが、お前に僕以外の優しさなど要らない。お前には僕が居れば良い。此の愛でお前を包んでやる。最早誰の言葉も届かないだろう? 雨宮。守屋は君から去った。ならば君の孤独の渇きの飢えを満たすのは他に誰が居る? 愚問だ。LINEの文章でも言った。此れからは僕達で互いに支え合って生きて行く。僕以外君は要らない筈だ。此れが此の世界の真実なのだから。守屋との電話を切った僕は風の吹く窓の外を見ていた。朝十時。自分の部屋から青空が見える。君も見ているだろうか。此の爽やかで悲しい空を。

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