サイコパス・ドラッガー #24 闇の胎動
メビウスの犯行声明から一週間。世界各地で汎ゆるセキュリティーと警備が強化され警戒化が続く第一世界では物々しい緊迫感が後を断たなかった。此れ現実? 誰もが目を耳を魂を疑って身を潜めている。テレビのチャンネルは何処を捻ってもメビウスの話題で持ち切りである。先進国では早くも武力衝突を覚悟していた。季節は春。誰しもがエイプリルフールの下らないネタだと思いたかった。
「世界各国のスパコンがハッキングされロックダウンも目前なんです。此れは立派な冷戦でしょう? 自衛隊は何をやってるのですか」
「ですからG20サミットも結論は彼等のサイバー攻撃の沈静化を戦争の第一歩と提言しているのです。国家予算を削ってでも国民の命を守るのが優先ですっ!」
「敵は知能犯で得体の知れない連中ですっ、地球の危機なんですよ! 建前なんて不必要じゃ有りませんか」
「バーカ語れ語れ」
ポテトチップスを頬張りながら自分の部屋で国会議事堂の中継を眺めている。政治家に何が出来るの? 自分の身が一番可愛いんでしょう? 年寄の堅物に日本なんて任せてられないわ。テレパシーで出来る事は全て行った。後は高みの見物のみ。私はサイダーを飲み干して呑気に曖気をした。さーて次の手は、と。私なんてウンコクズで良いの、自分の手汚したくないもの。ポテチの薄塩で塩っぱいけど。あー暇だ。ヒマヒマ! 何か面白い事起れっあ、もう起ってるか。メビウスもすっかり時事ネタで流行語大賞ノミネート確実ね。何で此の神択ばれないの皆? バーカ。うんうん善き哉善き哉、やっと面白くなって来たじゃない世界、こうでなくちゃ。ニンゲンなんて一皮剥けば獣同然、戦いのDNAの遺伝子が体に刻まれてるのよねきっと。新世界良し東明日美良し今良し。動け動け貴様等有見せろ。本気出しなさい感情剥き出しなさいプラス寄越しなさい、私は幸せに成りたいだけよっそうよ神よ、この世界の命運どうせ私だけが握ってるのよ。あんた達に渡すもんですかメビウス。良いわよ私の家にピンポンダッシュして来なさいよ殺すから。フン。良く考えて行動しなさい、私も負けないわよっ良いわね? 嗚呼グッドホルモン出したいな、人生一度きりだし、なんちゃってっ私が造った世界がまだ有るもんねーだっ! なんて独り言囁いても無意味ね……どうしようかしら。その時だった。幻聴が聴こえた。テレパシーの相手。違う、自分の意識ではっきりと判る。此れは章太郎、石ノ森章太郎ねっ! 私は呼び寄せる。暇潰しに最適ね。
「章太郎何か用?」
「死後の世界でのんびり漫画でも描いていたら此の有様だ」
「プラスくれっ!」
「了承した。私を想え」
無の時間。過ぎ去る時。刻まれる余韻、流れ行く風の行方は。章太郎は相変わらずだ。
「中東人は宗教バカだからな、腹いせに違い無い」
「言いたい事はそれだけ?」
私はベッドで横に成りながら欠伸を噛ました。幻聴? フンッ敵よ敵。そんなのサヴァン症候群の弊害よ。
「良いのかその選択肢で。神の啓示を待っているのだぞ皆」
「私の無に勝てる新世界は総てに勝利する世界よ。ゲームスポーツ戦争etc……あんたも所詮私の餌よ」
「有は其々違うのだ」
「で?」
「死後の世界は確実に有るぞ。其の辺は心配要らずだ」
「で?」
「もっと幸せに成りたいか? 明日美」
「……」
「気を感じろ」
眼を閉じた。幾つもの選択肢の中で唯一光り輝く答。応えは此処に在る。私はもう掴んで居る。章太郎が言った。
「御前だけの道を只進め」
消えた。気が消滅した。所詮は幻聴、不合格。でも……此れも立派な私の一部なのよね、私は統合失調症、此れは揺るぎ無い真実。理由の無い事柄なんて無くて当然で必然。石ノ森章太郎は石ノ森章太郎。私の尊敬する憧れの的、良しとするか、うんうん。気が付けば其の儘寝落ちした。昼三時。涎を拭いて起床する。何ら変わらない部屋に只響き渡る掛時計の音、窓から入る四月の陽光……。世界って何時まで平和なのっ? 此の儘で良いのっ? 章太郎教えて。私は一人虚空の青空を見上げながら想い続けて居た。心配事は切りが無い。凡ての生命は活きなければ成らない。明日が来るのだから。私は私也の航路を舵を切り進む。雨が降ろうと槍が落ちようと、孤独に。