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演出をし過ぎて怪しい訪問者

 心当たりのないピンポーンには防犯のためモニター確認をして、セールスや怪しい感じだったら出ないように心がけているが、うっかり通話にでちゃった。
 インターホンのモニターから見えたのは首にかけたタオルの端だけで、顔も体も見えなかったから、大家さんかな? って思っちゃたんだよね。そんな感じの大家さんだから。でも、普通、ピンポンしたら通話モニターの方に顔向けていないか? ちょっと訝しくは思った。
 そしたら、いわゆる一つのセールス(かどうかも怪しい)。
「便利屋です。挨拶に来ました」
 そう言った女性は、年齢不詳の芸人の山田花子風の容貌で、黒いバックを斜めがけ、首には白いタオル。マスクはなし。失礼ながら、思わず前世紀からタイムスリップしてきたんかと思ってしまった。
 今、ちょっと出られないというと
「何でですか?」
 は? いきなり上から目線。セールスでもまともなセールスなら、そう言うか?
「とにかく、今、ちょっと出られないんで」
 むかっとしたが、できるだけ普通に接した。
「何でですか? 挨拶に来たんで、出てください」
「なら、チラシでも入れといてくれればいいですから」
「挨拶したいんで、出てください」
 もう図々しさが俺様レベル。そして、しつこい、しつこい。「顔を出せ。出ろ。出ろ」の一点張り。
 こうなると相手の朴訥とした風体が逆に妙に怪しくなってくる。
(怪しい。この朴訥風体、油断させる演出じゃねえのか)
 出た途端に、ドアに足はさんで閉じ開けて上がり込む気じゃねえだろうなあ。あるいは窃盗団の下調べか? 便利屋とか言ってたが、「じゃあ」と仕事頼んだら、頼まれついでに何か自主的に持っていく――窃盗ですね――「別の仕事」もすんじゃねえだろうな。いや、私は必要があっても、絶対、こんな怪しい上に上から目線には頼まんけど。
(なめやがって)
 腹が立った。
「とにかく、今、出られる状態じゃないんで」
 そう言い捨てて、通話を切った。

 怪しい山田花子風は、しばらくして立ち去った。彼女は、私のところ以外の部屋はピンポーンしていかなかったから、うちを狙い撃ちしたようだ。なぜだ。
(あ。洗濯物か)
 私の服装って、基本的に性別不明年齢不詳のものが多いから(だって楽なんだもん)、通常、洗濯物で性別や年齢を判定しにくいはずだが、今日に限ってエプロンを干していた。しかもユニセックスじゃなくて、たまたま買った如何にもおばちゃん風。それで判断しやがったか。世間知らずで人の良い年配おばちゃんを想像したんだろう。残念だったな。ファック・ユーなBBAで。
 怪しい山田花子風の気配が完全に消えた後、念のためにドアと郵便受けを確認した。窃盗の下見だったら、何か印を残しておく可能性があるからだ。とりあえず、そういったものはなかったので、ひと安心。第一、この如何にもボロっちくて、金目のものがなさげなアパートに窃盗団は目を付けんだろうが。
 ドア付近を見回していて、なぜ、山田花子風が最初にモニターにタオルの端しか映ってなかったわかった。ドアののぞき穴を覗いてたんだワ。うっわ! 怪しさマックスじゃん。どういう怪しさかはさておき。
 そういやあ、ココ見てくれに反して防犯カメラあるんだっけ。何かあったのか、大家さんが後付けで設置したらしい。今、防犯カメラの映像を見たら、ドアののぞき穴を覗き込んでいる前世紀からタイムスリップしてきた怪しい山田花子風が映っているかと思うと、ちょっと滑稽ではある。

【教訓】

  • 若いかBBAかを問わず、外に干す洗濯物から性別判断しにくいようにすべし。エプロンもユニセックスにすべし。

  • 「ピンポーン」の後にモニターから姿が見えないところに立ってる相手には注意すべし。


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