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雑記11 最近観たホラー映画10ーー「キャリー」「ジェーン・ドゥの解剖」ーー

 「キャリー」(1976年)は超能力を持った少女の悲劇を描いた作品で、学校の閉じた人間関係や親による虐待染みた教育といった先進国の子供が味わう不幸を詰め合わせた感じがある。衣食住がある程度充足される先進国においては、なにより人間関係こそが最大の苦悩であり、幸福の源であると言えるのかもしれない。作品のメインは、ヒロイン・キャリーの人間関係を巡る諸々であり、ラストの超能力暴走シーン以外は殆ど恐怖シーンがないためホラーとしては薄味である。むしろ超能力を盛り込んだ青春モノと言った方が適当かもしれない。とはいえ、キャリーを中心に様々な鬱屈が描かれている点はかなり面白い。8点。キャリーの超能力は初潮とそれに伴う苦悩を機に発現したと思われ、本作では思春期と異能に密接な関連があるようだ。他にこうした設定を採用しているのは『めだかボックス』で、この作品では異能が思春期限定で発現するとされる。また、ストレスやトラウマが超能力と関係するのは『アライブーー最終進化的少年ーー』で、心の穴(心の傷のこと)と異能の種類や強さが相関しているという設定になっている。やや趣向が異なるが、『ジョジョの奇妙な冒険』や『HUNTER×HUNTER』、『うえきの法則』なども本人の資質と超能力の傾向が関係する設定である。キャリーは念動力を発揮する少女だが、その力が災いして学校の同級生を皆殺しにし、更には母親も殺害、罪の意識から自害してしまう。呪われた力の覚醒で、自身も不幸になる女性と言えば「リング」が有名だろう。貞子は自身の霊能力が原因で父親に殺されている。一方、「キャリー」や「リング」同様に超能力を持ちながらも、それを上手く制御し、活用しているのが「フェノミナ」のジェニファーであり、虫を操る彼女はその力で連続殺人事件を解決している。
 「キャリー」同様に魔女を描いた作品に「ジェーン・ドゥの解剖」がある。じわじわと迫る恐怖を描き、Jホラー的色合いが濃い。8点。ジェーン・ドゥというのは日本でいう名無しの権兵衛みたいなもので、身元不明の女性につけられる通称である。彼女は17世紀アメリカのニューイングランドで魔女狩りに遭って殺されており、その時の苦しみや憎しみから死して魔女になったとされている。彼女は強すぎる憎悪ゆえ、下手人だけでなく人間すべてに憎しみを向けており、死体となった彼女に関わった人々を手当たり次第に呪っているようである。復讐の枠を超えた虐殺者というネタでは「呪怨」の伽耶子が最も有名で、彼女も自身を殺した夫だけでなく、彼女の死んだ屋敷を訪れた人間ならば誰でも祟り殺している。復讐をする内に殺人の快楽へ酔ってしまった女性としては、他に『空の境界』の浅上藤乃がおり、彼女は無痛症が原因で元来凶暴な性質を持っていたのだが、復讐殺人を契機にそれが露呈し、数多の人間を殺害した。藤乃が超能力で殺戮を行う点は「キャリー」にも似ている。一線を越えた過度な復讐というネタはデュマ『モンテ・クリスト伯』でも使われている。死体が呪具となり、人々に災いを呼び込むというのは恐らくツタンカーメンのミイラにインスパイアされたのだろう。これは、1920年代に王家の墓を発掘し、ツタンカーメンのミイラを持ち帰った人々が悉く不審死したと伝えられる都市伝説で、死体が人を呪う点で共通する。ジェーン・ドゥが生きていた17世紀ニューイングランドでは、清教徒による神政政治が行われており、ピューリタン信仰に基づき、厳格に生活が管理されていた。これに逆らった人間は迫害や追放の憂き目に遭い、当時の、厳格だが沈鬱した社会状況はホーソーン『緋文字』や映画「ウィッチ」によく描かれている。この地域で行われた最も有名な魔女裁判にセーレム魔女裁判があり、これは本作でも言及される。悪魔憑きの女性が現れたことに端を発する一連の裁判で19名が処刑され、数倍以上の人間が拷問された。これを機に清教への疑念が生じたらしく、徐々にニューイングランドの宗教色は薄れていった。ジェーン・ドゥはこれの被害者だと考えられ、本作では、それに起因する憎悪が彼女を呪われた存在に変貌させてしまったと言われている。

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