雑記17 最近観たホラー映画16ーー「ゾンビ」「ドーン・オブ・ザ・デッド」「ショーン・オブ・ザ・デッド」ーー
ロメロの「ゾンビ」は非常におもしろい。8点はある。まあ、「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」の方がいいとは思うが。ストーリーの大筋は、ゾンビから逃げでショッピングモールにたどり着いた主人公グループが、孤立したそこで生活し続けるというもの。欲望が充足するにつれ満足感が減衰、段々と鬱屈していきつつも、消費をやめられない主人公達や、死して尚モールを目指し続けるゾンビに資本主義経済へのアイロニーが見て取れ、物に価値を見出し、商品に囲まれることを幸福とするアメリカ型資本主義のコア部分が批判される。本作はゾンビを用いた諷刺であり、皮肉は強烈。その一方、後のゾンビ物に見られる死と隣り合わせの恐怖は少なく、ホラーとしては薄味な印象だ。似たような傾向はジョン・カーペンターのホラーにも見られる。ロメロが作り上げたゾンビ作品の様式は後のゾンビ物に引き継がれ、モールでのサバイバルなどは王道展開になっている。ただし、ロメロのノロノロ歩くゾンビはあまり継承されず、昨今のホラーでは「新感染」「REC」など走り回るゾンビが主流。
ロメロ「ゾンビ」は後続に大きな影響を与えた作品なため当然というべきか、リメイクが存在する。それが「ドーン・オブ・ザ・デッド」である。評点的には7点くらいか。結構面白い。リメイクと紹介したが、中身はまあ、殆ど別物で、ゾンビから逃げてショッピングモールに立てこもるくらいしか共通点がない。なにより、ノロノロ歩くロメロ型と違い、こちらのゾンビは高速機動能力を持っており、バイオハザード的である。ゾンビの危険度が本家より上がったことで、サバイバルものとして緊迫感が生まれ、作品全体の怖さも増している。ただ、ロメロに見られた資本主義批判という要素はかなり薄れ、代わりに人間の蛮性がフィーチャーされている。個人的には元作品の純文学的部分を削ぎ落して通俗化した上で、発表時のゾンビ・ホラーの流行りにチューンアップした作品といった感じ。面白いが、それは娯楽的な愉快さであり、ロメロが醸したかった文学的な深刻さではない。
「ゾンビ」にはパロディ作品もあり、「ショーン・オブ・ザ・デッド」がそれである。名前以外はちっとも似ていないし、諷刺性はほぼないし、ギャグがてんこ盛りだしで、先の「ドーン・オブ・ザ・デッド」と違って通俗に振り切っている。正直名前を借りただけな感じだが、これはこれで面白い。7点。特にユーモアとホラーを組み合わせたような作品は映画だとあまり多くないので、なんだか落語を映像化したような気分になる。主人公は冴えない家電販売員で、甲斐性のなさやデートに友達同伴する無粋さが祟って、結婚を考えている彼女にフラれてしまう。しかし、諦めきれない主人公が挽回策を練っていると街にはゾンビが溢れ始め……というのが導入。この時点で既に馬鹿々々しいが、これが最後まで続くのだから怖れいる。その上でゾンビ物のお約束を踏襲し、話をホロリと締めているあたり、作り手のホラー愛が伝わってくる。ホラー映画だが、怖がるためではなく、楽しむために見られる、結構珍しい作品。因みに、コミックな作品とは言え、ゾンビ物なので普通にグロい。