92歳 三石巌のどうぞお先に 11
三石巌が1994年から産経新聞に掲載していた「92歳 三石巌のどうぞお先に」の記事を掲載させたいただきます。(全49回)
ビタミンCの働き
個々によって異なる役割を優先
ここまでくるあいだにビタミンCの働きがいくつもでてきた。意外じゃなかったかな。
じつは、どのビタミンにも複数のやくめがある。ボクがメガ(大量)ビタミン主義をまもっているのは、そのことをよく知っているからなんだ。
ビタミンは微量栄養素だから、ちょっぴりあればじゅうぶんだ、と思っている人はざらにいる。いまはちがうけれど、わかいころのボクは野菜や果物をたっぷりくっていた。むかしの食事のスタイルはそれがふつうだったんだ。それなのにビタミンCのけつぼうにやられた。それで白内障はおきたが、壊血病はおきなかった。そのことをキミはどう思う?
これは大きな問題じゃないか。ボクはこの問題にチャレンジしたんだ。
そのころ家内はやたらにカゼをひいた。なおってもすぐにまたクシャンクシャンだ。そのことをキミはどう思う。ライナス・ポーリングの考えをわすれたわけじゃあるまいな。これもビタミンCのふそくってことになるだろう。ただし、そのころボクはまだビタミンCとの関係などおもってもみなかったがね。
おなじビタミンCぶそくでも、ボクはそれほどひんぱんにカゼをひきはしない。家内の目はいたってよくみえる。ふたりとも壊血病のケはぜんぜんない。
これはどういうことなんだろう?
ふたりともビタミンCの摂取量はゼロであるはずがない。とすると、ボクのばあいビタミンCは、白内障をふせぐのをあとまわしにしてカゼをふせぐほうを優先したってことになるだろう。家内のばあいはその逆になる。
ボクのアイディアはこうだ。
頭のなかにカスケードを考える。カスケードとは段々になっている滝のことだ。滝といえばながれおちるのは水だが、空想となれば何だってながせる。それが空想のいいところだ。ボクはビタミンの流れを考えた。
ながれおちる段には穴があいているとするんだ。ビタミンCはその穴にながれこむ。そこで仕事をする。仕事はなんだっていい。水だったら水車をまわすところだが、ビタミンCで水車をまわすって話は通りがわるい。ただ、水車をまわしてなにかの仕事をするっていうのなら、はなしはとおる。
そうなればビタミンCの仕事のレパートリーを思いうかべたらいいわけだ。白内障の予防、カゼの予防、いろいろあったろう。
三石巌
1901年 東京都出身
東京大学理学部物理学科、同工学部大学院卒。
日大、慶大、武蔵大、津田塾大、清泉女子大の教授を歴任。
理科全般にわたる教科書や子供の科学読み物から専門書にいたる著作は300冊余。
1982年 81歳の時、自身の栄養学を実践するために起業を決意し、株式会社メグビーを設立。
1997年 95歳で亡くなるまで講演・執筆活動による啓発につとめ、
生涯現役を全うした。
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