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『決闘年越しそば』

大みそかの蕎麦食い対決。天下分け目の大一番で東の代表そば清こと清兵衛は窮地に立たされていた。
こんな時に、あの蛇含草があれば……。と願いはするものの今現実にそんなものはない。
このままでは清兵衛は約束通り西の代表そば八の舎弟となるしかない。
蕎麦はすでに清兵衛ののどまで来ている。少し気を緩めればそれこそあふれてきそうなものであった。
目がくらむ、周りの歓声が遠く聞こえる。
その中で一つ際立った声があった。妻の棗の声だ。
「清さん、もうやめて。蕎麦がつかえて死んだりでもしたら元も子もないじゃないか。なんだってそこまで……」
清兵衛は答える。
「そ、側仕え(蕎麦づかえ)にはなりたくない」

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