SS:春に思い出すこと
春。最高気温が氷点下からだんだんとプラスの数字になる頃。西日本では桜が咲き始めているのに、まだまだ雪が降るのではと脅えながらも雪の山が日々小さくなっていく様に寂しさを感じる頃。
そんな時に、何か始めたい……と思ってしまうのは、周りの空気感が新生活に向けてアピールしているからなのか。
社会人になって1年。某通信教育のパンフレットを見ていた。気になっていたもののなかなか手が出せずにいたけれど、やってみたいという気持ちが勝ち、ペン習字を選んだ。
この時なぜか私は『親に聞いてみないとな』と思ったことを、今でもゾッとするくらい覚えている。
いま私は何を思った?親に聞く?一人で暮らしていて、自分で稼いだお金でやりたいことをやるのに?
自然とそう思ったことに気がついて、動揺した。
学生時代、習い事ができなかったこと、やりたいと言っても反対されるということが心の奥深くに根強く残っていて、そんな事を思ったのか。
ひとまず深呼吸を一回。心を落ち着けてから改めて通信教育の手続きにとりかかった。勿論、家族には一言も言わずに。