【エセ童話】「王女と魔法をかけられた王子」或いは「鉄のハインリヒ」の偽童話

原案 グリム兄弟
この物語はフィクションであり、グリム兄弟には何の責任もございません。
一部に残酷表現がございます。


私はR国の王女。R国の王様の末娘だ。私は自慢じゃないが、何人かいるお姉さま方の中では一番かわいい。お姉さまは40人くらいいるが、いちいち覚えてられないのでどうでもいい。お兄様も多分何人かいたらしいけど、しばらくしたらいなくなっちゃうので、私のきょうだいはお姉さまだけだ。末っ子なのでお兄様がいなくなった理由は知らないし、興味もないけどね。
今のトコは、私がお父様のオンリーワンなので、とにかくこの座をキープしないと。お姉さま方の大部屋に回されて、折角の個室を取られてなるもんですか!

お気に入りの、王宮の奥のライムの脇にある泉で金色の毬を投げるのが私の日課だ。他にすることも無いからしょうがない。泉のそばにあるので、再々の事、毬が池に落ちる。私のお気に入りの侍女がそのたびに拾ってくれたのだけど『泉の近くだと毬が落ちるから場所を変えましょう』と言ってくれた事をお父様に報告したら次の日からいなくなった。ちょっと罪悪感。大好きだったのにな。さて、今日はどうしようか。泉に落ちると面倒だけど、気を付けて投げればいいか。さて、キ~ック!あらら、さっそく池に落ちちゃったよ。どうする?…ま、いっか、また新しいの買ってもらえばいいし。
すると森の陰から、シルクハットをかぶった妙な物体が歩いてくる。
しかし…ヒトじゃないよね。よくよく見てみる…えっと、カエルだよね?
カエルみたいな顔というんじゃなくて、まんま、カエルだ。
「あの、カエル・・・ですね」とりあえず返してみる。
「さよう」カエルが帽子を取って一礼する。
「キモ…」
「なにか?」
「いえ、なんでもありません。すみません」
思わず苦笑いして謝ってしまったが、何故カエルなんかに敬語でしゃべらなくちゃいけないのかと自分自身に腹が立った。
「モリアオガエル?」
「違うね。私は人間だよ。ホラ、シルクハットをかぶっているだろう?」
なんだかサン○オの社長みたいな理屈だ。どう見たってカエルでしょうが。大体さっきカエルって言ったよね。
まあ今はジェンダーとかがうるさい時代だ。見た目で決めつけるとやかましそうだし、とりあえず黙っておこう。
「あなたがモリアオガエルだってことはいったん置いときますけど、いったい私にどういうご用件ですか?」
「いやね。今、キミは泉に毬を落としたよね。そいつを僕が拾ってきてあげたのさ。そこでまず、お礼の話になるんだけど」
「拾ってくれなんて一言も言ってませんけど」
「いやね、石だって可哀そうと思うくらい泣いてたじゃないか。だから助けてあげたのさ」
「別に泣いてませんけど」
「お礼と言っちゃなんだけど、キミが僕を愛してくれて、遊び相手になってくれて、食卓で、僕のそばに座って、金の皿から食べ物を取って、キミのカップから飲ませてくれて、キミのベッドで眠らせ…」
「あの…叩きのめしていいですか?叩きのめして眠らせちゃっていいっすかねえ」
モリアオガエルは青ざめた顔をさらに青くすると、泉の中に逃げていった。とりあえず疲れちゃったし帰ろっか。

翌日の夕方、ディナーの時間。昨日は眠れなかった。寝不足だ。アイツのせいだ。しかも怖くて庭にも出られず、部屋に籠ってた。一日を台無しにされた気分だ。何も食べてないのに食欲もない。恋デスカ?んな訳あるかい!
あの、憎いモリアオガエルめ。食欲もなくぼ~っと窓の外を見ていると、窓の外から声がする。軍兵が扉を開けると…思い人現る?いや、思ってたけど、思い人じゃねーし、モリアオガエル…まさか王宮の中まで来るなんて。
「誰ぞ?」
お父様が誰何する。
「私ですよ」
モリアオガエルがニヤニヤして言う。
「お嬢様の許嫁、約束の男ですよ」
いつの間にか勝手に許嫁にされている。モリアオガエルは昨日のいきさつをお父様に報告する。お父様は大きく頷きながら聞いているけど。カエルの話聞いてんじゃねーよ。
「一度交わした人との約束は果たさねばならぬな」

色々説明したけど、お父様は人の話は聞かない。カエルの話は疑いもせずに聞くくせに。娘とカエル…どっちを信用してんのかな。
史上最悪のディナータイム終了。カエルの皿から食事して、カエルのコップで飲むってどんな罰ゲームよ。しかもまだ罰ゲームは終わんない。
だけどね、こっちもこのまま終わんないからね。

寝室までついてくる、どこまでもド厚かましいモリアオガエル。
「ねえ、カエルなんだしもう帰らない?」
最期の忠告。
「スベってる」
カエルのご返答。これでアンタの運命決まりね。寝室に入る。カエルももちろんついてくる。
ベッドの前に置いてあるのは…銃?何でここに?カエルだし壁に向けて投げつけてやろうと思ったけど、こっちのが確実かも。
モリアオガエルがニヤニヤして言う。
「同じベッドで寝かせてくれないと御父上に報告するよ」
ああ、そうですか。じゃあバイバイね。
「ねえ、あなたロリコンっすか?あのね、少年法っていうのがあってね」
モリアオガエルに銃口を向けてニヤッとする。なんだか気分が乗ってきた。
「死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ!!!ギャハハハハ」
モリアオガエルに銃弾を浴びせまくった。
気が付くと。モリアオガエルの姿は消えて、なぜか見たことのないイケメン男の亡骸があった。
「誰こいつ?」
夢中になってやっちゃったけど、この先どうする?少年法があるので、罰を受けることはないけど、王女としての私はどうなるの?そもそもこいつ誰よ?

この先残された道は2つだけ。少年法を盾にして、いっそこのままクーデターやっちゃえやっちゃえで、お父様達も倒してしまう。それから王位継承権が私のトコまで倒して女王になる。女王になってしまえば治外法権だ。or何事もなかったようにこのイケメンを消してしまい黙っている。でも、お父様達すべてを倒すのはめんどくさそうだな。このイケメンさえ消せれば、カエルがおうちに帰っただけで終わるし。とはいえ、カエルならともかく人間の処分はしんどいか。

『鉄野ハインリヒ様というお方がお見えになられましたが、いかがいたしましょうか?』
扉の向こうから最近来たばかりの新しい侍女の声が聞こえる。
とりあえず、例のイケメンを暖炉の中に隠して急いで部屋を出る。今日がクリスマスでなくてよかった。ここで煙突からサンタが下りてくれば修羅場になる。それにしても、鉄野ハインリヒって誰?

「こんばんわ、夜分恐れ入ります。私は隣国の王子の忠実な家臣のハインリヒと申すものです」
自分で自分の事を忠実な家臣というあたり逆に信用できないけど。
「どのようなご用件かしら。女性のもとに見ず知らずの男性が訪問されるにはこのような時間はいかがな物かしらね」
「ご心配なく、私はお子様に興味なんてありませんよ」
クールに笑うイケメンの家臣。なんかムカつくが、そもそも隣国王子って誰よ?
「実はですね」
ひそひそ声でハインリヒが説明するには、何でも隣国の王子様なる人が、悪い魔術師に術をかけられてカエルになったようだ。どこかで聞いたような聞いてないような。
「ひょっとしてモリアオガエル?」
「そうなのです」
したり顔でハインリヒは言う。
「ご存じですか?」
私の脳内で考えがグルグルと回りだす。知らないと言ってもいいが、もしもハインリヒが、お父様に聞いた場合またややこしくなる。
「ええ、まあですね。来たには来たんですけど。モリアオガエル。でも、訳の分からないことばかり言うんで困りましたわ。最後はさようならと言ってお帰りになられました」
これなら矛盾点はないだろうか。
「その王子様かどうかは知りませんけど」
「いえ、我が王子に違いありません。いや、ご迷惑をおかけしたようで申し訳ございません」
「どういたしまして。お役に立てないようでごめんなさいね」
「いえいえ、私の仕事もこれにて終了です。あなたのお部屋にご案内いただけますか?何なら、あなたのお父上をお呼びしても良いのですが」
腹黒イケメンがとんでもないことを言い出す。なんか知ってる?
お父様が出てくるとややこしくなる。こうなったら一人でも二人でもおんなじか。さっきの銃でこの家臣を仕留めよう。ここはR国の領土だし、まして王宮。隣国の家臣がいなくなったって疑われっこない。
私は思いっきりの作り笑顔をハインリヒに振りまく。
「では用意しますので、しばらくお待ちくださいね」
モリアオガエルと違って人間に銃弾をいざ浴びせるとなると足がすくむ。
だけど、その用意をしなくちゃね。ハインリヒさんしばらくお待ちの程を。

扉が開いて、私の部屋の中にハインリヒが入ってくる。
まず、確認。侍女とか近衛兵だったら目も当てられない。
ハインリヒ1人が室内に入ってくる。よし、大丈夫。
再びの作り笑顔。
「私のお部屋へようこそ、あなたは世界一の幸せ者ですよ。そして…」
ハインリヒの心臓めがけて取り出した銃から3発の銃弾が撃ち込まれる。
「サ・ヨ・ナ・ラ」
良し、うまくいった。心臓を狙っとけば間違いないだろう。
『バチン、バチン、バチン』と馬車が壊れるような音が3発。
「死んだのかな?」
ハインリヒの顔をのぞき込む。
「死んでませんよ」
隣国の王子の家臣・ハインリヒのムカムカする様な笑顔。
「私は王子がカエルに替えられた絶望から、心臓の周りに3本の鉄の輪を付けていたのです。今ここに、それが役立ったのです。王子はもうこの世におりませんがね。王子には深く感謝せねば。さあ、王女様。私たちの力で新たなる世界の始まりです!」

その後、ハインリヒによるクーデターで私の父や皇位継承者が倒されて、私がR国の名目上の女王に即位した。王子が失踪した隣国を併合してR国の国力は近隣国最強となった。呼んでもいないのに何故か王宮に押しかけて来たことを思うと、すべての黒幕は恐らく、ハインリヒだったんだろう。銃を部屋に置いたのも。
今では摂政のハインリヒと、初めて会った時以来決して仲良くなることはなかった。ただの籠の鳥として、女王の看板だけを背負っている。
さあ、今日もライムの脇にある泉に毬を投げようかな。
池に落ちたら、生意気なカエルは出てくるんだろうか。





頑張ります。