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日本的リーダーシップ能力の向上方策

vol.0006
■下記の論文から
『日本型リーダーシップ能力の向上方策について』塹江清志
日本経営工学会誌 42巻(1991)1号

▶︎目的
日本的リーダーシップ能力を向上、強化せしめるための一つの方策を提案すること。

▶︎1.2 リーダーシップの機制
リーダーの遂行するリーダーシップが、行動として捉えられる以上、リーダーシップ(機能)も上述した生活体の行動の機制と同じく、リーダーの「リーダーシップ能力」とそれを発動させようとする彼の「動機づけ」、あるいは「意欲」都の2つの要因の相乗作用によって規定されるという機制で捉えることができる。

▶︎2 日本的リーダーシップ能力
2.1「受容」の原理

日本的リーダーシップ能力とは、リーダーの受容能力のことである。

2.2 生きがいの原理
日本的リーダーシップ能力とは、リーダーの神性、いわばカリスマ性であるとしている。
神とは人間存在に生きがいを付与するものである。それゆえ、日本的リーダーシップ能力とはリーダーが部下に生きがいを付与する能力のことであるとなる。

2.3 日本的リーダーシップ能力
以上のことから、日本的リーダーシップ能力とは、リーダーが部下の存在、生そのものを、その根底において受容することによって、部下に生きがいを付与して、部下の面前に俗世の神として自らを出現せしめることできる能力のことである。

▶︎3  日本的リーダーシップ能力の向上方策
いかにすれば、人間は、他者をその生の根源において「受容」し、「生きがい」を付与する能力を獲得できるかが課題となる。いかに河合(10)樋口(11)のユングの説に従ってこの方策を検討する。

3.1 無意識の存在
「無意識」とは、意識されることが、当人にとって何らかの不利益をもたらすがゆえに、あえて「抑圧」(自我を防衛する代表的な心的機制)によって「無意識か」された心的内容である。

3.2 影
この無意識を構成する心的内容が「影」と「アニマ(アニムス)」。
「影」とは当人の「意識において生きられなかった心的内容」であり、それを自覚することが当人自身を傷つけることになるので、あえて抑圧され、無意識化された否定的な心的内容であり、この心的内容の集合によって「同性」の人格的形象をとって現れたものである。
人間は誰でも程度の差こそあれ、倫理的・道徳的・社会的に容認されない、あるいは、評価されない心的内容(欲求、モノの見方・感じ方・考え方)を抱いているものである。
容認されない心的内容や自己の欠点を自らのものとして自覚することは、自らを傷つけることになるので、無意識的に抑圧の心的規制を発動させて、これらの心的内容を無意識化し、よってこれらの心的内容に対して、本人は無自覚となるのである。
このことによって当人は、自我が傷つくのを防衛し、さしあたっては、一時的な精神的な安定を獲得するのである。しかしこのことは、必ずしも恒久的な精神安定にはつながらないのである。

3.3 投影
特に本論文において問題となるのが、「投影(projection)」である。
「投影」とは「他者の心の中に自己の心的内容(影)を見出すこと」である。それゆえに人間は一般に、他者の心の中に(自分自身の)「悪」や「影」を見出しがちなのである。
この精神分析学的、あるいは、深層心理学的な意味での「投影」が、他者否定、自己肯定の根本的な原因なのである。従って、日本的リーダーシップの能力である「受容」の能力を向上・強化するためには、まず、第1に精神分析的な意味での「投影」を行わないことである。

3.4 投影の引き戻し
自分自身の「悪」や「欠点」を投影によって、他者の心の中に見出し、他者を否定することをやめるには、自分自身の「悪」や「欠点」を自分自身のものとして認識することである。このことを、「投影の引き戻し」という。それには、「自己洞察」による「自己認識」という方法しかないのである。

3.5 精神的成長
「自己洞察」によって自己の無意識の層にある自己の「影」を「自己認識」することによって、当人の「意識された」心の領域は広くなる。このことを「心が広くなる」「内面的成熟」「精神的成長」という。このとき、他者の心の中に投影によらないで「悪」や「欠点」をみだしても「同性愛憐れむ」であり、少なくともそのことゆえに他者を否定することはできなくなるのである。

3.6  個性化と自己実現
人は、自己の悪、欠点を自覚する時、可能な限りそれらを「制御し」、「是正し」、かつそれらをより価値あるあり方に変えようとするものである。これが、自己の「個性」に基づく生き方、つまり「個性化」なのである。「個性化」はいうまでもなく「創造的」な生であるから、「生きるに値する」すなわち「生きがいある」生なのである。
自己の悪、欠点の自覚が深化・拡大するにつれて人は、自分自身の全体(ユングの「自己(self)」を把握する方向に限りなく歩むことになる。これを「自己実現」という。

3.7  知識と知恵
知識とは、自分お外界に関する情報であるが、知恵は、内科医に関する情報である」といわれている。とすれば、精神的成長とは、「知恵」の獲得であり、個性化とは「知恵」に基づく生き方と言えるのである。

3.8  神的存在
以上の理論が理解でき、自分自身の精神的成長を思考する時、他者の存在、生そのものを「個性化」の可能性のある存在として、その根底において積極的に「受容」できるようになるのである。この時、他者に対して、「生きがい」への道を示唆することとによって、他者に「生きがい」を付与したことになり、他者の面前に「神」として現出することになるのである。

3.9 自己洞察への契機としての挫折
以上のことから、日本的リーダーシップ能力である「受容」の能力が「自己洞察」によって獲得され得ることがわかる。内省による自己洞察が根源的方策であると提言したいのである。
 この時、内省の1つの契機が「挫折」なのである。人はややもすると、自己の「挫折」に際して「他罰的・外罰的」になりがちであるが、それを「内省」の契機(挫折は偶然でなく、必然であると言う言葉すらある)とする姿勢を確立することが日本的リーダーシップ能力である「受容」の能力を向上、強化せしめる根本的方策であることをここに提言したいと思うものである。

▶︎4. PM式リーダーシップ訓練法との比較

4.3 PM式リーダーシップ訓練法との関係
この訓練法は、以下の二つの特色を持っているといえる。
(1)リーダーシップ能力をP(Performance)、M(Maintenance)の二つの機能を遂行する能力として捉えていること
(2)それらの能力が「感受性」、「共感性」に依存するものとして寅ている音。
一方、著者が本論文で提案する方策は以下の二つの特色を持つ
(1)リーダーシップの能力を、日本人の民族的、精神構造と言う観点から考察して、それを「受容」能力として捉えていること
(2)その受容能力が「自己洞察」による「投影の引き戻し」と「個性化」に依存するものとして捉えられること

5.結論
以上のことから、三隅(2)のPM式リーダーシップ訓練法によるリーダーシップ能力の向上方策に対して「自己洞察」による「投影の引き戻し」「個性化」を通じて日本的リーダーシップ能力である「受容」能力を強化・向上せしめる方策を、「日本的リーダーシップ能力の向上方策」としてここに提言する

参考文献
三隅(2) 三隅二不二「リーダーシップ」、ダイヤモンド社、pp.219−232(1972)
河合(10) 河合隼雄:「ユング心理学入門」、培風館、pp89−113(1967)
樋口(11) 樋口和彦:「ユング心理学の世界」、創元社、pp54−135(1978)

今日の私の面白Point:リーダーシップ向上の鍵は「挫折」
金井先生の「一皮向けた経験」を思い出した。
これも読みたい。
https://b.kobe-u.ac.jp/papers/2009_12/

この論文は、特にユングの説に則って見ていくところからぐんぐん引き込まれてしまった。
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日本的リーダーシップの能力=「受容」
 ↓↓向上・強化するためには↓↓
第1に精神分析的な意味での「投影」を行わないこと
 ↓↓そのためには↓↓
自分自身の「悪」や「欠点」を自分自身のものとして認識すること
               =「投影の巻き戻し」
*「自己洞察」による「自己認識」という方法しかない
 ↓↓つまり↓↓
自己の無意識の層にある自己の「影」を「自己認識」することによって、当人の「意識された」心の領域は広くなる=精神的成長
 ↓↓そして↓↓
自己の悪、欠点の自覚が深化・拡大するにつれて人は、自分自身の全体(ユングの「自己(self)」を把握する方向に限りなく歩むことになる。これを「自己実現」という。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
結果:日本的リーダーシップの能力向上には、内省による自己洞察が根源的方策である。この時、内省の1つの契機が「挫折」である。自己の「挫折」に際して、それを「内省」の契機とする姿勢を確立することが日本的リーダーシップ能力である「受容」の能力を向上、強化せしめる根本的方策である。


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