【フィナンシェ話#4】実体験こそが教育になる(金融教育編)
様々なバックグラウンドの方に伺う、幼少期のお小遣い、お年玉、寄付や投資のこと。そこから自分の子供につながるフィナンシェなヒントを探ります。
前回の環境教育編に引き続き、フィナンシェの会に関わっていただいている、ゴールドマン・サックスの西村万祐さんのお話です。米国で経験された金融教育について教えていただきました。
▪️中学3年生で会社経営の体験授業
── 現在は金融機関にお勤めですが、金融について学んだことは覚えていますか
西村さん:思い出として残っているのは、中学3年生の時の国際ビジネスという授業です。この授業を通して、30人ほどいるクラスメイト全員で1つの会社を作るんです。
── 中学校の授業で会社を作るなんて、私もやってみたかったです。具体的にはどのように進めるのでしょうか
西村さん:まず役割分担です。誰が社長をやるのかを投票で決めて、商品のデザイン担当、経理、マーケティングなどの基本的な会社にある役割を分担していきます。そして、商品のコンセプト設計から、ターゲット層の決定、商品デザインや原価コストそして収支などをプランニングします。これは数回の授業ではなく、1年間を通して実施するものなんです。
── 内容もとても本格的ですし、1年間もかけるなんて日本の学校ではなかなかできないですね。ちなみに西村さんは何を担当されたのですか
西村さん:私はデザイン担当でした。チョコレートフォンデュのチェーン店を企画して、ロゴなどをPhotoshopで作りましたね。
1年間の授業という話ですが、実は全米で年1回カンファレンスが開催されます。このカンファレンスは私と同じように国際ビジネスの授業で会社経営を学ぶ学生が各地から集まるんです。自分たちのブースを出し、どのようなビジネスか、どのような成長を見込むか、という説明を行なったり、試供品を来場者に渡したり、ということをやりました。ビジネスを早々に経験できるのはとても良い機会だったと思います。
▪️どんな投資家になりたいか、を考える授業
── 会社経営の授業は、自分たちで物がどのように作られて、利益を得られるのかを実体験できるので、日常生活における商品の見方も変わりそうですね。経営だけではなく、株式投資の授業はありましたか
西村さん:高校生の時に半年間のクラスで、バーチャルポートフォリオ(※1)を作る授業がありました。確か投資したのは、10万ドルで6銘柄(※2)くらい。ポートフォリオを作っておしまいではなくて、毎週金曜日に誰が一番多く利益を出したのかランキングが張り出されます。学期末には優秀者へのプレゼントもあるんです。
ポートフォリオ(※1):複数の金融商品、もしくは投資する企業株式の組み合わせのこと。1種類の金融商品、企業の株式だけ投資するよりも、複数の種類を組み合わせた方がリスクが低い、という分散投資の考え。
銘柄(※2):投資先の企業数を数える単位。6銘柄ということは、6種類の企業に投資をしたということ。
── ランキングが張り出されるのはシビアですね。高校生たちはどのように投資先の会社を選ぶのですか
西村さん:人によってまちまちでした。私は好きな企業ということで選んでしまいましたが、本格的な人はチャートやトレンドを見たり、分析をしたりしていました。周りの友人もみんなバーチャル投資をやっている同士、ということもあって、株価に関連しそうなニュースが話題になったり、親の投資について会話したり。株式の話を友達の間でするのは不自然ではなかったように感じます。
── 何に投資をするのか、が生徒の自由なのであれば、バーチャル投資を担当する先生は何を教えるのでしょうか
西村さん:授業の中では、ウォーレンバフェット(※3)の話が出てきました。どんな投資家になりたいか?ということを話し合うんです。またTEDでスタートアップの人の話を聞く、金融危機などそのときのタイムリーなニュースをテレビで見る、といったこともありました。今考えるとかなり実践的な授業だったのかもしれません。
このような授業は、お金の使い道はたくさんあるのに預金だけではもったいない、という価値観形成にもつながったと思います。投資しなくて大丈夫なの?という感覚ですね。
ウォーレンバフェット(※3):世界で著名な投資家の1人。世界長者番付で第3位にランキングされている。長期投資や慈善団体に自社株を寄付することなどでも知られる。
▪️お小遣いはキャッシュレスで自己管理
──そんな投資や会社経営の授業を受けていた西村さんでもお小遣いの時期はあったと思います。どのように与えられて、どのように使っていましたか。
西村さん:お小遣いは毎月もらっていました。中学3年生からは全てデビットカードで入金してもらっていました。友人もキャッシュレスの子が多かったです。現金に比較してデビットカードではオンラインで明細を確認ができます。そのため、何にお金を使ったのか、どのくらい足りなくなりそうか、という自己管理がしやすかったです。両親からは管理されていなかったですね。
基本的にお小遣いの額は毎月決まっていて、その額でやりくりをしなければなりませんでした。3つ下の弟はお小遣いが足りなくなった、なんてことがありました。
──キャッシュレスだとお小遣い帳をつける手間が省けて、子どものお小遣いには良さそうだと思いました。ところで、さすがに米国ではお年玉はないですよね。
西村さん:そうですね。お年玉がもらえないということもあったのか、お小遣いに加えて、家ではインセンティブというものがありました。インセンティブは毎年何かしらの目標を立てます。たとえば、逆上がりができるようになる、試験に合格する、といったものです。この目標を達成すれば、インセンティブとしてのお小遣いが追加でもらえました。
また、普段の生活のお手伝いでもお小遣いをもらっていました。お昼ご飯はいくら、洗濯は、掃除は・・・という値段がそれぞれあって、お手伝いを積極的にしていました。お金がどうしても必要になる友人の誕生日会前など、集中的にお手伝いをやっていたように思います。
──どのようなお手伝いが多かったですか
西村さん:毎日勉強で時間が足りなかったということもあり、早くできるお皿洗いをたくさんやっていました。お金がほしいという理由で手伝っていた面も否めません。でも、手伝うと両親が嬉しそうにしてくれたからやりたい、と思ったのを覚えています。また、社会人で一人暮らしになったとき、生活スキルや金銭感覚がついていたのは良かったと感じています。
【インタビューを終えて】
日本との一番の違いが「実践があるかないか」だと感じました。椅子に座っているだけでは学べないことはたくさんあります。自らが疑問を持ち、クラスメイトと議論しながら学ぶことは金融教育にも必要なポイントだと思いました。また、投資のテクニックだけでなく、自分がどんな投資家(もしくは経営者)になりたいのか?という授業もぜひ日本の教育現場で取り入れていただきたいです。
西村さんからは、中高生から金融を学べるゲームとして「モノポリー」をご紹介いただきました。小学生にはちょっと早いですが、ぜひご家族で試してみてはいかがでしょうか。
またお忙しい中、ご協力をくださり、示唆に富むお話をしてくださった西村さんにこの場でお礼を申し上げます。
お話を伺ったのは・・・
西村万祐さん
1994年東京都生まれ。2001年から12年間カリフォルニア州サンノゼ市に暮らし、現地の高校在学中に米ディアンザ カレッジで環境科学を学びGPA 4.0を取得。帰国後、米ハーバード ロースクールのCopyright Law (著作権法)のDiplomaを取得しつつ、東京大学法学部を2017年に卒業。新卒でゴールドマン・サックス証券に入社し、為替営業を経て規制当局への報告やガバナンス強化に関する業務に従事。ゴールドマン・サックス ジャパン ウーマンズ ネットワーク(JWN)のCOOを2018年から務める。2018年11月から日本サステナブル投資フォーラム(JSIF)の運営委員に就任。
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写真:Unsplash
取材・文:Mari Kamei
たくさんの家庭や子どもたちに届けるため、可愛いイラストを使ったお金の紙芝居、海外事例の翻訳など、さまざまなコンテンツを作っていきたいと考えています!