見出し画像

『原始人100万年』伝説の八頭身

 ラクエル・ウェルチときたら『恐竜100万年』(1966年)。

 ビキニ姿の原始人を演じて「20世紀最高のグラマー」と絶賛されましたね。『恐竜100万年』はイギリスのハマー・フィルムが手掛けた特撮映画で、もともとは1940年の『紀元前百万年』という石器時代を舞台にしたヴィクター・マチュア主演の恐竜映画でした。

この時の特撮はタダのトカゲ類にちょっとメイクするなどして、ズームアップして撮影し、それを背景スクリーンと合成、トカゲに猛獣の鳴き声などをオーバーダビングして、人々が逃げ惑う演技をしているフィルムを重ねるという方法でした。これはさすがに子供の頃観て「ただのトカゲじゃん」とがっかりしたのを憶えています。そもそも人類と恐竜は共存した時代はないと思いますが、そこは映画のお話。この作品を後にリメイクしたのが『恐竜100万年』です。今度は特撮の神様レイ・ハリーハウゼンが手掛けました。ハリーハウゼンと来たらストップモーション・アニメですから、本物そっくりの恐竜や巨大ガメが登場し、位置がぴったりハマった小さなサイズの人間と戦うシーンがリアルでした。火山の噴火や地割れなども前作の数段上を行く迫力でしたが、なんといっても見どころはラクエル・ウェルチでした。
 これがヒットを飛ばすと、二番手三番手を追いかけるのがエンターテイメント業界のお約束で、1967年には同じハマー・フィルム制作で『紀元前3万年の女』が制作されました(日本は未公開)。

 これは恐竜ではなくアマゾネスのアドベンチャーなのでちょっとプロットは違いますね。主演はマルティーヌ・ベズウィック。私は本作を見ていないのですが、ベズウィックは『恐竜100万年』にも出演しており、共演したジョン・リチャードソンと結婚しました(のちに離婚)。他にも『007/ロシアより愛をこめて』『007/サンダーボール作戦』にも出演しています。
 そして1970年には『恐竜100万年』と同じスタイルで、「恐竜+美女」をコンセプトに、ビキニ姿の美女が紀元前100万年を舞台に生贄にされる『恐竜時代』がつくられました。

 これもハマー・フィルムが制作し、これら3本は「洞窟ガール3部作」と呼ばれているのだそうです。美女役はプレイメイトのビクトリア・ベトリ。カットされたシーンもあるということですから、これはもう完全に狙って作られた作品でしょう。
 そして本作はかつて復刻シネマライブラリーで、私が担当する以前にDVD化されたのですが、画質が悪いので廃盤にした経緯があります。今は本国でブルーレイも発売されているのでHDマスターがつくられたのでしょう、日本版の発売が期待されるところです(が、たぶんでないでしょう)。
 ちなみにベトリは、高校生の時、ロバート・ワイズ監督の目にとまり『ウエストサイド物語』のマリア役の候補に選ばれましたが、ご存じのように最終的にはナタリー・ウッドが演じました。
 そして時を同じくして制作されたのが『原始人100万年』です(どうして毎度邦題で100万年にこだわるのかわかりませんが、これもハマー・フィルム制作)。

 この作品に登場するのが、伝説の八頭身を誇るジュリー・エーゲ。1962年、18才の時にミス・ノルウェーの第二位に選ばれた経歴を持っており、本作では見事なプロポーションを披露しています。
 本作は英語ではない「石器時代」の架空言語ですので日本語字幕はつけないというルールでした。なので翻訳及び字幕制作にかかるコストがずいぶん抑えられて助かりました。
 このあたりから大人向けの「恐竜映画」は姿を消し、徐々にファミリーがターゲットの作品へと変わっていきましたね。ただ、恐竜の特撮にはずっともやもやが残るものばかりで、度胆を抜かれる衝撃を受けるのは90年代に入って『ジュラシック・パーク』が登場するまで待たねばならないことになります。

 以下、無用のことながら。
 
 ラクエル・ウェルチは、今年2023年の2月に、長い闘病生活を経て亡くなりました。仕事中に「えっ、ラクエル・ウェルチが亡くなったんだ」とショックを受けたことを憶えています。わたしは『ミクロの決死圏』の他にもシングルマザーを演じた『カンサスシティの爆弾娘』や、クリストファー・リーの職人に作ってもらったライフルで復讐に燃える女ガンマンを演じた『女ガンマン 皆殺しのメロディ』などが好きでした。

 娘さんのターニーはロン・ハワード監督のSF映画『コクーン』で映画デビューし、お母さんの若いころにそっくりとオールドファンに迎えられました。母親から自立するためにモデルの仕事を選んだのに、また母親と比べられる始末。スターの娘という運命に翻弄されないでほしいものです。

 ビクトリア・ベトリは、その後波乱の人生を歩みます。復刻シネマライブラリー作品ではロッド・テイラー主演・制作のマカロニ風西部劇『砦のガンベルト』でメキシコ人の娘を演じていました。『ローズマリーの赤ちゃん』にも出演しており、楽屋落ちのようなシーンもありました(詳しく覚えていませんが役名と芸名にちなむものです)。そのまま順調にいくかと思えましたが・・・。
 私生活では2010年に口論の末、夫を至近距離から射殺、逮捕、起訴されるという大事件を起こしました。その後2018年に減刑されて釈放になっています。この時もうすでに73才。まさかこんな事件を起こすようになるとは。

 ジュリー・エーゲは、映画の仕事の後、故郷ノルウェーに帰って、さらに数本の映画に出演した後、1998 年になんと看護師の資格を取得しました。そして看護師として長く仕事を続けましたが、2008年に乳がんのため64才で亡くなりました。若いころ、演技のことではなく自分がグラマー女優と呼ばれることに抵抗はなかったそうです。

 映画鑑賞だけでも面白いですが、そこに出演した俳優の人生、監督の動機というものを丹念に調べていくという試みは、知的好奇心を大いに刺激し、もう一つの映画体験を味あわせてくれます。大人になった今、そうした映画人たちの人生に思いを馳せるのも、またファンの楽しみではないでしょうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?