可愛らしくてセクシー!シャーリー・マクレーン奇跡の1本『泥棒貴族』
『泥棒貴族』は、2012年に『モネ・ゲーム』というタイトルでリメイクされました。映画の完成度は『モネ・ゲーム』の方が上、でもヒロインの可愛らしさはキャメロン・ディアスよりも『泥棒貴族』のシャーリー・マクレーンの方が上だとわたしは思っています。
わたしは『アパートの鍵貸します』を見てシャーリー・マクレーンにひと目惚れして以来、この時代のマクレーン作品を1本でも多くリリースしたいと思っていました。結局成果としては『泥棒貴族』『画家とモデル』『凡ては夜に始まる』『走り来る人々』『縄張り』そして、わたし自身が手掛けたわけではなく時代も変わりますが『青い目の蝶々さん』『潮風とベーコンサンドとヘミングウェイ』『あなたの死後にご用心!』『ハリウッドにくちづけ』、ビデオレンタル時代に『アウト・オン・ア・リム』といったところです。
『泥棒貴族』は『アパートの鍵貸します』と双璧をなす、コケティッシュでチャーミングの極みといえるシャーリー・マクレーンが観られる作品です。ではあらすじをご紹介します。
ハリー・ディーン(M・ケイン)は相棒のエミールとともに、香港のナイトクラブでダンサーのニコール(S・マクレーン)を見つめていた。ハリーはニコールに報酬5000ドルの仕事を持ちかける。その仕事とは、ハリーとニコールが、イギリス人貴族の夫婦を装って、中東の国ダムズに行き、隠居中の大富豪シャベンダー(H・ロム)が所有するホテルに宿泊をする。シャベンダーはすぐにニコールに気づき、近づいてくるはず――なぜなら、ニコールはシャベンダーの亡き妻に生き写しで、必ず興味を持つはずだからだ――その後ハリーは、仕事があると言ってニコールだけをシャベンダーの夕食に同伴させる。そして指示された時間に、ニコールはシャベンダーを残して空港へ向かい香港へ戻って来るというものだった。ニコールは怪しみながらも引き受けるのだが・・・。
秘宝を盗み出す計画を立てた男が次々と予想外のハプニングに見舞われるというコミカルな泥棒映画の傑作。クールなマイケル・ケインと可愛いシャーリー・マクレーンのかけあいが楽しく、この二人の魅力が見事に引き出されている。舞台となる香港や中東のセットも60年代の雰囲気を醸し出しており素晴らしい。
この作品の面白さは、前半マイケル・ケインが秘宝を盗み出す作戦を考案し、それが映像で説明されていくのですが、この時のシャーリー・マクレーンが無表情なのにとにかくかわいい。ちょっとアジア人を真似た無表情といった印象なのですがこれがいいんです。マイケル・ケインはシャーリーを使って富豪のハーバート・ロスから秘宝を盗み出す算段をしますが、中盤以降「想像ではなく実物」のシャーリーを迎えてからというもの、「思ってたのと違う!」が連発することになります。役者の演じ分けも面白いし、1本で2本の映画を楽しませてもらえた(前半はクライムサスペンス、後半はロマンティックコメディ、トータルでスクリューボールコメディ)という満足感がある作品です。
序盤に「空想での完璧な計画」を、後半に「ぐだぐだの実行とその顛末」を見せてそのGAPのおかしさで観客を楽しませる、この手法の元祖はブレストン・スタージェス監督の1948年の『殺人幻想曲』です。世界的指揮者のレックス・ハリソンが妻の浮気を知って、タクトを振りながら演奏中に3つのシナリオを空想します、すなわち「妻を完全犯罪で殺し、浮気相手に濡れ衣を着せる」「潔く妻と別れる」「浮気相手とロシアンルーレットに挑む」。で、コンサート終了後に完全犯罪のシナリオを実行しようとするが、グダグダな展開に・・・という話。とてもよく出来ています。
この作品は1984年に『殺したいほど愛されて』という邦題で、指揮者がダドリー・ムーア、綺麗な奥さんがナスターシャ・キンスキーという配役でリメイクされました。これも面白かった。芸達者なダドリー・ムーアが後半めちゃめちゃ笑わせてくれました。レックス・ハリソンは気品がありますが、ダドリーは根っからのコメディ俳優なので、笑いのセンスが素晴らしい。
他に日本映画でも「空想」と「現実」のGAPで笑わせてくれる映画があったと思いますがちょっと思い出せません。とにかくこの構成が秀逸で、『泥棒貴族』は抜群に面白い作品です。ただ一つ難を言えばラストの唐突感。でもそれは良しとしましょう。
当時すでに大スターだったシャーリーが、まだ無名だったマイケル・ケインを『泥棒貴族』の相手役に選んだことでも知られています。この時の役名「ハリー」がのちにマイケルの当たり役「ハリー・パーマー」シリーズになるなんてよく出来た話もあります。ちなみに2005年にニコール・キッドマン主演の評判の悪い映画『奥様は魔女』でシャーリーとマイケルは再び共演しています。わたしは観ていませんが、この2人の絡みがあるのならそれを目的になら観てみたいなと思います。
以下、無用のことながら。
復刻した『泥棒貴族』のジャケットはいつものように川喜多記念映画財団から当時のものをお借りしました。公開当時はユニバーサル日本支社が配給元でしたが、キーアートの構成を見ると、シリアスなクライムサスペンスのように売り出そうとしていたのがよくわかります。
世界の秘宝をめぐり智力の限りをつくす盗みのテクニック!
これが当時の惹句ですから、この映画の面白さの本質をついていません。クライムサスペンス寄りの、あまりユーモアを感じさせない一文です。確かに「空想/現実のGAPのおかしみ」といったテーマを踏まえて、本作を一言で説明し、観客に興味を持ってもらうのは至難の業です。
ではそのリメイクである『モネ・ゲーム』(配給GAGA)はどんなキャッチコピーだったかというと、
なぜ、盗めない!?
華麗なる一発逆転を狙った、世紀の泥棒エンターテイメント!
というもの。オリジナルからだいぶ軌道修正されていることがよくわかります。さらにユーモアも感じられます。
最初にわたしが「完成度は『モネ・ゲーム』が上」と書いたのは、脚本がコーエン兄弟であるということに由来します。リメイクに失敗作は多いけれど、これについては実によく出来ていたと思います。『泥棒貴族』ではハーバート・ロムがやった役をアラン・リックマンがやっていて、実によかった。シャーリーはこの映画を観たんだろうか。どんな感想を持ったのでしょう。また暇な時間に当時のハリウッドレポーターのインタビュー記事などを検索して調べてみたいと思います。
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