『シェーン』HD版とその他のアラン・ラッド作品
みなさんもご存じのように『シェーン』には多くの海賊盤が存在しています。画質が悪いうえに、冒頭のパラマウントのロゴ部分をカットしてあるマスターを使用しているメーカーが多いです。おそらく「本編は日本では著作権が切れているから勝手に使えるが、パラマウントのロゴマークは商標登録なので、無断で使用すると今でも訴えられるからカットしてリスク回避しよう」ということなんでしょうけれど、映画ファンとしてはもう全く破綻した考えで「映画」というコンテンツが何であるか、客は何を求めているか理解できていない、とわたしは思っていました。『シェーン』だけでなく、『駅馬車』も『リオ・グランデの砦』も『静かなる男』も「安かろう悪かろう」のDVDばかりでした。
わたしは海賊盤を駆逐したい、そういう思いでこれらの作品を復刻したわけではありません。映画ファンとしてちゃんとしたものを持っていたい、楽しみたいと思ったからです。そしてそういう思いを持っておられる方は他にもたくさんいらっしゃるはずだという確信がありました。ワンコインで安いからDVDは売れているでしょう。それも選択肢の1つとしてあってよいと思います。でも、100円で飲めるコーヒーがあれば700円の美味いコーヒーもあっていいでしょう。
パラマウントに『シェーン』や『静かなる男』の国内の正規DVD販売に問題のないことを確認し、いよいよDVD化に着手しました。
さて・・・。
わたしは以前招待いただいた「ウエスタン・ユニオン」の集いを通じて熱烈な西部劇ファンの方が多く存在すること、そしてその多くはシニアの映画ファンであること、そして『シェーン』はみなさんにとっては本当に特別な作品であって、西部劇の頂点という見方もできるし、いい加減には扱えない作品であるということをよく理解していました。これは言ってみれば、70年代における『ゴッドファーザー』であり、80年代における『バック・トゥ・ザ・フューチャー』であり、90年代における『ターミネーター2』のようなもの。極めて熱心な研究家や、コレクターの方が存在し、作品の隅の隅まで記憶に刻み、ありとあらゆるトリビアや制作秘話をご存じであり、わたしのようなにわか西部劇ファンに出来ることといえば、ちゃんとしたマスターを取り寄せて制作を進めることくらい。封入するブックレットの解説はやはり川本三郎先生、そしてもう一つロケ地訪問というコンテンツを「ウエスタン・ユ二オン」の当時ワゴンマスターを務めておられた原川さんにお願いしました。このお二人が『シェーン』の解説をお書きになる。これに異議を唱える方はおられますまい。
さて、「ウエスタン・ユニオン」でもわかったことでしたが、『シェーン』好きな方は、アラン・ラッドのファンでもおられる人が多く、他の出演作品のリクエストもたくさんお伺いしました。調べるとラッド作品はほとんどリリースされていません。映画評論には『シェーン』以外はいまひとつ的な解説が多いのですが、それは評論家の見方であって、われわれファンからすればラッドの雄姿を再び味わえるのであれば、作品の良しあしは二の次で良いのだと、妙な使命感に燃えて、わたしは契約中のスタジオの他の作品の権利状況を探りました。復刻できた作品と私が担当した作品には寸評を書いてみます。
ワーナー・ブラザーズ(ターナー、ジャガープロ)
『サンチャゴ』アドベンチャー
ロッサナ・ポデスタとの共演でラッドは『カサブランカ』のボギーみたいな役どころ。かっこよかった。本作と『地獄の埠頭』はラッドの創設したジャガープロ制作で、リリース直後にワーナーとの権利が切れそうになって、あわてて延長を申し入れたのを憶えています。
『地獄の埠頭』犯罪
『悪人の土地』西部劇
アーネスト・ボーグナインと。これも及第点以上の作品。西部劇なんだけれど、アドベンチャー的な展開が面白かった。
『大爆破』西部劇
『大荒原』西部劇
『マッコーネル物語』伝記
良妻を演じたらピカイチのジューン・アリソンとの共演。素晴らしい愛妻物語でした。『戦略空軍命令』と似たようなプロットで、どちらにもジューン・アリソンが良妻役で出ている。『重役室』も『グレンミラー物語』もアリソンが良妻役。日本で言えば八千草薫か倍賞千恵子か。今の女優さんで言えば誰だろうな。
ユニバーサルと20世紀FOX(Park Circus※経由)※代理店
『地獄へ片足』西部劇
『シェーン』とは正反対のラッドの復讐劇。復讐と言っても、される方はとんだ言いがかりで、『眼には眼を』のクルト・ユンゲルスのお医者みたいなものでした。ラッドの冷たい表情が悲しくもあり、異色の出来。
『サスカチワンの狼火』西部劇
何かにも書きましたが『シェーン』の続編のような印象を持つ好篇。なにせ衣装がそっくり。わたしは一方的に先住民を攻める西部劇はあまり好きになれませんが、本作やカーク・ダグラスの『赤い砦』のように、主人公が衝突を回避するために奮闘する物語が好き。
コロムビア
『西十三番街』犯罪
わたしは本作は傑作だと思います。現在にも通じるテーマが素晴らしい。ラッド版『暴力教室』という感じの作品で、こちらの感情を揺さぶります。
『戦う若者たち』戦争ドラマ
シドニー・ポワチエと共演。じっくりと見せるドラマで派手さはないけれど人間ドラマとしてはまずまずの出来、ただ観方を変えると白人と黒人の人種差別を批判する内容にはなっているけれど、舞台が朝鮮戦争で、アジア人はどうでもいい感じが少し難点。まあ、ハリウッド映画ですから、そこに目くじら立てても仕方がありません。
『零(ゼロ)下の地獄』海洋アクション
結果以上の11本が復刻できました。パラマウントの『東方の雷鳴』は権利は確認できましたがリリースできませんでした。ワーナーの『太鼓の響き』もかなり最初からオファーしていましたが、ずっと調査中のステータスが消えませんでした。これはラッドとチャールズ・ブロンソンの共演でものすごく見たかったです。