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「もしも」の世界『五月の七日間』と『ブラス・ターゲット』

 この2本はわたしが復刻シネマライブラリーを担当する前にリリースされていました。2本とも傑作ですが、もうとんでもないプレミア価格になってしまいました。
 いずれも「もしも」の世界を描くサスペンスです。
 まずは『五月の七日間』からご紹介しましょう。

 アメリカ大統領(フレドリック・マーチ)の米ソ核軍縮条約案をソ連が受諾し、平和な国際情勢が続いていたが、ホワイトハウス前では反対運動や暴動が絶えなかった。米ソ間の平和条約など紙切れ一枚のことで、二枚舌のソ連はこの間にも軍事力を増そうとしている、それを阻止するためには大統領を失脚させ、軍事政権を樹立するしかない、そう考えるスコット将軍(バート・ランカスター)は徐々にスピーチで国民の心を掴む。その部下のケイシー大佐(カーク・ダグラス)は将軍とは故知の仲で信頼関係もあったが、偶然将軍の呼びかけで競馬賭博への参加を呼び掛ける暗号があることを掴む。
 この軍部のおかしな動きを知り、真相は競馬ではないと直感したケイシーは長官会議を終えたスコットに会見を求めたが、そこで紙片を拾った。それには40機のジェット輸送機を国内の重要都市に派遣するという暗号命令が書き留められていた。さらにケイシーの同僚が、陸軍省の記録にはない基地へ特殊部隊を率いて赴任した。ケイシーは決意し、ホワイトハウスを訪れ、大統領に直接スコットへの疑問、クーデターの疑いを伝えた。大統領は信用のできる少数の人間を集め、極秘裏に調査と証拠集めに乗り出した。ケイシーはスコットの愛人エリノア(エヴァ・ガードナー)と接触するも情報は掴めなかった。そんな折、ついに関与した司令官から証拠となる署名付きの告白文を入手した1人も謎の飛行機事故で死んでしまう。また1人、秘密基地の大佐を説き落とし、軟禁状態から脱出して空港でホワイトハウスに電話しているとき、大佐は連行されてしまう。動かぬ証拠がなくては、スコットを追求できない。一方スコットはケイシーの行動を知り、模擬非常動員計画の期日を早めるよう命令を出す・・・。


タカ派の米軍トップを演じたバート・ランカスター

 カーク・ダグラスは『五月の七日間』を映画化するにあたり、ワシントンで原作者たちに会いに行くのですが、その時にある立食パーティに参加します。そこで隣にいた人物から声をかけられます。
 「『五月の七日間』を映画にするんだって?」
 ダグラスが振り返ると、声の持ち主はケネディ大統領!
 「はい、大統領!」
 それから20分、ダグラスとケネディは話し込みました。この映画がきっと素晴らしい映画になるとケネディは力説し、ダグラスは成功を確信したと自伝に書いています。
 脚本はロッド・サーリング。『夜空の大空港』という傑作を生んだ眼井脚本家です。

 ダグラスは盟友のバート・ランカスターにクーデターの中心人物となるスコット将軍か、善玉のケイシー大佐のいずれかの役を選んでくれと依頼し、ランカスター自身がスコットを選びました。
 監督はジョン・フランケンハイマーにオファーを出しましたが、ここで問題が。フランケンハイマーはダグラスに「ランカスターさんとはもう仕事をしたくありません」というのです。その理由は前作『終身犯』撮影中、フランケンハイマーを差し置いて自分がカメラに指示を出すなどして、役者がやっちゃいけないことをやったからでした。
 ダグラスはそれを聞いて今回の作品ではランカスターがフランケンハイマーを困らせるようなことは一切起こさないと約束しました。これを言えるところがすごい。
 出来上がった作品は見事としか言いようのない傑作で、フランケンハイマー歴代作品の1位2位を争う出来でしたね。
 エヴァ・ガードナーが出てきますが、中身はほとんど男と男の熾烈な頭脳戦でした。
 ちなみに、ランカスターとフランケンハイマーの間にはトラブルは発生しませんでした。トラブルがあったのはエヴァ・ガードナーの方。撮影中、ガードナーは毎晩自分の控室にフランケンハイマーを呼びつけ、酒に酔ってはあることないこと噛みついたそうです。

大統領役のフレドリック・マーチがまた素晴らしかった 最後のスピーチには感動しました

 さて、もう1本の「もしも」を描くサスペンスが『ブラス・ターゲット』です。

 第二次大戦終結直後の1945年、ナチから接取した金塊を輸送中何者かに強奪されるという事件が起きる。その捜査を命じたパットン将軍(ジョージ・ケネディ)だったが、内部犯行と見るCID(犯罪捜査部)のドーソン大佐(ブルース・デイヴィソン)は、ジョー・ド・ルッカ少佐(ジョン・カサヴェテス)の協力を求める。犯人の手口は、ルッカ考案の作戦を真似ており、内部でなければ知りえなかったからだ。一方、パットン直属の司令部将校だが事件の黒幕、ロジャーズ大佐(ロバート・ヴォーン)はパットンの捜査の手がのびていることを知って将軍暗殺を計画。スイスでシェリー(マックス・フォン・シドー)と名のる殺し屋との交渉を進める・・・。


殺し屋を演じるとピカイチのマックス・フォン・シドー

 この映画はなんといっても豪華キャストが見どころです。ジョン・カサヴェテス、この人がめちゃめちゃかっこいい。一番いいころじゃないですかね。そしてソフィア・ローレン。この人も脂ののっている頃です。それからなんといっても殺し屋を演じたマックス・フォン・シドー。ロバート・レッドフォードの『コンドル』でも殺し屋役でしたが、『エクソシスト』のメリン神父といい、その道のプロフェッショナルという役をやると本物に見えてきます。そのほかの配役では、悪党のロバート・ヴォーン、これは見事でした、「ナポレオン・ソロ」とか『荒野の七人』よりもこの人は悪役を遣らせた方がニヒルでぴったり。パットン将軍役のジョージ・ケネディも、ジョージ・C・スコットよりも軽量でしたが、いい配役でした。
 パットン将軍は事故死ではなく、秘かに暗殺されていたとしたら・・・という、いわゆる「歴史改変」ものなのですが、原作にリアリティがあり、パットン暗殺までの準備の積み重ねが実に面白く、本当によく出来ています。『ジャッカルの日』もそうでしたが、殺し屋は寡黙でなくてはならないと思います。そして一度契約を交わしたらもう二度と止めることはできない、このルールがいいですね。
 復刻シネマライブラリーをやっている頃はこの2本が特に好きで、一生懸命宣伝していました。

 以下、無用のことながら。

 『五月の七日間』で、バート・ランカスターとの仲を取り持ち、扱いにてこずったエヴァ・ガードナーをなだめ、ダグラスが何かと手助けしてやったジョン・フランケンハイマー。もちろん、この映画がダグラスの会社で制作された、実質的なプロデューサーであったわけですが、作品がヒットしてからのインタビューでフランケンハイマーはダグラスに謝辞の一つも言うことなく、ダグラスもランカスターも彼の描いた絵のワンピースであるかのように語り、ダグラスに言わせると「大監督」として振る舞ったのだそうです。
 世話をしてやった人間が、その恩義も忘れてその人物のもとを軽々と去っていく。ダグラスは何度もそういう場面に遭遇してきたようです。
 考えれば芸能界という世界はそういうものなのでしょう。
 そういえば『イブの総て』もう確かそんな話だったなあ。でも『雨に唄えば』は「君のことをちゃんと見てたよ」という話でした。やっかいなのはこの関係が親子の場合。『ジプシー』での母親のロザリンド・ラッセルと娘のナタリー・ウッド。

 マネジャーやプロデューサーが親で、スターが子供の関係はだいたいいい話でない事が多い。どちらかがつぶれます。『ジプシー』は母親と娘のぶつかり合い。娘が成長するというのは分かりやすいけど、親も成長するということがあるのだろうか、と思います。わたしは成長しなくちゃ。

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