復刻できなかったクロード・ルルーシュの『パリのめぐり逢い』と『あの愛をふたたび』
前回検討はしたものの復刻しなかった『愛のために死す』と『愛の亡霊』について書きましたが、今回はクロード・ルルーシュ作品についてです。わたし自身、クロード・ルルーシュ監督の映画とは古い付き合いです。
まだ幼稚園の頃に『男と女』が大ヒットし、我が家ではフランシス・レイのサントラ(EP)をよくかけていました。
他にもこの時代、ルルーシュとフランス・レイ、ジャック・ドゥミとミシェル・ルグランの全盛期ですから、こうした音楽に浸かりながらわたしは育ちました。
高校の時に『愛と哀しみのボレロ』を観て衝撃を受けました。こんな表現方法があるのかと。たぶんラヴェルのボレロという曲も、ユダヤ人が迫害されていたことを知ったのもこの作品からです。さらにこの作品では、フランシス・レイとミシェル・ルグランの二人がが一つの映画作品で楽曲提供するというドリームチームを組んだわけですから、浅い知識のわたしでさえ、何か素晴らしい事が起きていると感じ取ったものです。役者陣も申し分なく、グレン・ミラーっぽいジェームズ・カーンもいいなぁと思いました。昔のハリウッドなら、この役は当然ジェームズ・スチュワート、エディット・ピアフはマレーネ・デイトリッヒ、カラヤンはタイロン・パワーか、フレドリック・マーチといったところでしょう。ヌレエフは配役が難航するところ。踊れるかどうかは別にして、ロシア系ではありませんがコーネル・ワイルドくらいしか浮かびません。
話が逸れました。
さて、『男と女』に匹敵するほど聴いたのが『白い恋人たち』と『パリのめぐり逢い』です。これらのフランシス・レイの傑作を聴くと、ああ、60年代のフランスにタイムスリップしたいなぁと思います。タートルネックのセーターにサングラスつけて、昔の大人はカッコ良かった。
『パリのめぐり逢い』は国内盤DVDか発売されていません。フランス盤も当時はなく、何故か突然オーストリア盤DVDが出ました。画質はまあまあでしたがHDリマスターではなさそうでした。その後スペイン版も出たみたいです。
フランス人ジャーナリストのイブ・モンタンは、アニー・ジラルドという美しい妻がいるにも関わらず、アメリカ人大学生のキャンディス・バーゲンとアバンチュールを楽しむのですが、やがてキャンディス・バーゲンは帰国し、アニー・ジラルドには相手にされなくなり、イブ・モンタンは愚かな自分にようやく気づくという展開ですが、ほとんど台詞はなく、映像と音楽で綴られる作品です。
この頃からキャンディス・バーゲンの人気が沸騰しましたが、わたしはアニー・ジラルドが大好きになりました。本作で、イブ・モンタンを見つめるあの視線!全部見抜いているようなジラルドの目の演技の素晴らしいこと。
キャンディス・バーゲンの方は演技というよりも、存在感ですね。これが別の女優であれば、あの危うさや幼さと背伸びの同居した感じはあまり感じなかったかもしれません。
イブ・モンタンはさすが映画界随一、不倫を演じさせたら世界一の俳優ですから大したものです。アニー・ジラルドとの食事のシーンのモンタンの目の演技もたいしたものです。ただシャーリー・マクレーンと共演した『青い目の蝶々さん』の時は似たような役だったので、「あれ、どっかで観たな」という感じの演技だったことを憶えています。
音楽はもう説明の必要はないと思いますが、作曲はフランシス・レイ。そして彼の『パリのめぐり逢い』と同時期にリリースされたのが『あの愛をふたたび』です。
知らないうちにDVDがリリースされていました。
こちらの方はジャン=ポール・ベルモンドとアニー・ジラルドのコンビで作られたルルーシュ作品で、『パリのめぐり逢い』ほど有名ではないかもしれませんが、ルルーシュ作品の中でもぜひとも復刻したい1本でした。
映画撮影のロケ先で、女優のジラルドと音楽家のベルモンドが知り合い、お互いに夫と妻がいる身でありながら、「大人の遊び」と割り切って楽しい時間を過ごす。そのうち遊びのつもりが本気になり、ジラルドはベルモンドに夢中になる。しかし別れが近づくにつれ、ジラルドは憂いを帯びてくる。
これは映画の筋を追う作品というのではなく、アニー・ジラルドという天才的な女優の演技を多能するべきものですね。もちろんシナリオもよく出来ています。しかしジラルドなくしては成り立たなかった。
映画ファンとして語り継ぐべきなのは、ラストシーン、空港でベルモンドとの再会を待つジラルドの見事な独り芝居です。これは、Youtubeでこの場面だけ見ることもできて、それだけでも鳥肌が立つような素晴らしいシーンなのですが、できればここに至るまでの時間をジラルドと一緒に過ごす意味でも本編を見た方がいいですね。
とはいえ、便利な世の中になりましたから、一応Youtubeの動画もつけてみましょう。最近では「ネタバレ」という言葉があり、結末を見せたり、話題にすることは大変嫌われます。わたしがわざわざこの場面をみなさんと共有するのは、もちろん鑑賞後の方々と「良かったねえ」という共感をともにしたいというのもありますが、本作を知らない若い映画ファンの人たちが、せめてアニー・ジラルドという名女優を知るきっかけになればいいなという思いからです。たぶん、本作全編もご覧にならないかもしれません、なぜって?他に見なくちゃいけない作品が山のようにあるからですね。
復刻の仕事をしていた頃、いつも考えていました。同時代の映画ファンはとても喜んでくださいます。しかし若い世代にはなかなか情報が浸透しません。いやー、わたしだってサイレント映画の名作や戦前の作品を次から次に紹介されても、まあ、あとでいいや、ってなってしまいます。それと一緒か、と思いながらも古い作品をせっせとリリースしていました。いつか若い世代の映画ファンに喜んでもらえる発売元になれるかもと思いながら。
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