マーロン・ブランドの『ゴッドファーザー』以外の仕事『シェラマドレの決斗』
TSUTAYAプレミアムでU-NEXTが観られるようになり、さっそく手続をして念願の『ゴッドファーザー』制作秘話にあたるTVドラマ『ジ・オファー』を鑑賞しました。大変興味深く、楽しめました。このドラマは制作のアルバート・S・ラディを主人公として描いているので、俳優たちはわき役なのですが、マーロン・ブランド役の俳優がいい感じを出していました。
復刻シネマライブラリーでは、マーロン・ブランド出演作品を1作品復刻できました。他にも調査はしましたが、リリースに至らなかった作品がいくつかあり、今回はそのお話しをしようと思います。
復刻できなかった作品は今でも覚えています。
まず最初が『寝室ものがたり』。これは1964年のユニバーサル映画で、監督はラルフ・レヴィ。この人はTV版の『ペチコート作戦』を演出したようです。『寝室ものがたり』はスティーブ・マーティンとマイケル・ケインが共演し、フランク・オズ監督が手慣れた演出で楽しませてくれた『ペテン師と詐欺師/だまされてリビエラ』の元ネタ=オリジナル作品です。
マーロン・ブランドがマーティン、マイケル・ケインにあたるのがデヴィッド・ニーブンという顔合わせで、リヴィエラを舞台に標的の女性をあの手この手でどちらが先に口説き落とせるかを競いあうという物語。練られた脚本が、オリジナルもリメイクもどちらもよく出来ていて、映画ファンの間では知られた作品です。
この主人公を2人の女詐欺師に変え、アン・ハサウェイ主演で再びリメイクしたのが2019年の『ザ・ハッスル』ですが、こちらはあまり話題にはなりませんでした。わたしも未見。
いずれにしても『寝室ものがたり』は観たかったです。残念ながらユニバーサルに問い合わせたところ権利なしとのこと。調べなおしつみるとプロダクションはユニバーサルではなく、2社ありました。そのうちの1社Pennebakerは、ブランド主演の作品を他にも3本『サヨナラ』『片目のジャック』『蛇皮の服を着た男』を製作していました。
『サヨナラ』でブランドが演じたのは朝鮮戦争の英雄の少佐で、日本で内地配属となって、将軍の娘と婚約してたのに日本人の歌劇団のスターに心惹かれていきますが、当時の同族結婚を強いる日米文化が二人に悲哀をもたらすというラブロマンスです。出演前にブランドはちゃんと原作に目を通していて、その問題提起は良かったけれど脚本が気に入らなかったと自伝で書いています。とにかくこのブランドという人は人種差別に厳しい人で、この役を引き受けると間接的に人種差別に加担してしまう、人種間の恋愛は自由であり、結末さえうまくやれば(ブランドは『蝶々夫人』的な結末とのこと)、引き受けるとジョシュア・ローガン監督に申し入れ、同意してもらったといいます。ところがいざ日本に来てみるとローガン監督が抑うつ状態になり、仕事が回らない。そこでブランド自身がアドリブをふんだんに取り入れた脚本に変えて、悪天候が続く中、大変苦労して撮影を行ったと述懐しています。DVDをお持ちの方はこのエピソードを踏まえてもう一度ご覧になることをお薦めします。
わたしはこの時代の日本が舞台になっている作品が割と好きで、シャーリー・マクレーンの『青い目の蝶々さん』(復刻しましたが今は廃盤)や、もう1本のブランドの沖縄を舞台にした珍作『八月十五夜の夜』が面白かった印象です。『青い目の蝶々さん』はイブ・モンタンが夫役ですが、この中でシャーリーがでたらめな日本語をまくし立てる(彼女は芸者のフリしている役)場面がケッサクでした。
ブランドが日本人通訳を演じ、ちゃんとグレン・フォードの通訳をして日本語(カタコトだけど聞き取れる)を話す『八月十五夜の茶屋』は、あと少しで復刻のところまで行きましたが、ちょっとしたアクシデントがあり発売タイミングが悪く、ラインナップから編成をずらしているうちにリリースができませんでした。この作品、ヴィトー・コルレオーネを演じたのと同じ俳優とは思えないくらい、ブランドは別人のようで、それだけでも面白いのですが日本側の京マチ子、根上淳、清川虹子といった豪華布陣、そして終始困った顔のグレン・フォードがいい味を出していて、一見の価値ありです。噂によれば淀川長治先生もエキストラで出演しているということですが、わたしは確認できませんでした。
で、当の本人はアジアでの国連技術援助プログラムに関する映画製作資金を集めたいのが発端で本作に出演したようですが、「映画の出来は最悪で、私はひどいミス・キャストだった」と自伝で語っています。しかしブランドはこの後、『サヨナラ』にも出演し、日本続けて日本を舞台にした作品に出ました。
もう一つ復刻したかったのが『私は誘拐されたい』。ユニバーサル映画ですが、これもプロダクションが異なり権利なしでした。大富豪の娘を誘拐するブランドと、コンビを組むのがリチャード・ブーン。この人は復刻シネマライブラリーでは、ランドルフ・スコットの『反撃の銃弾』、『リオ・コンチョス』で顔を憶えました。悪役顔で名わき役です。他に『ウエスト・サイド物語』のリタ・モレノ、パメラ・フランクリン(どういうわけか私は『ヘルハウス』よりもTVムービーの『女子大生・恐怖のサイクリングバカンス』とか『女子大生悪魔の体験入学』とかの印象の方が強い)と共演。作品の評判はともかく、観てみたい一心でした。ブランドは金欲しさに出演したと語っていますが、予告編を見る限り、存在感が伝わってきます。
そして復刻できたのは『シェラマドレの決斗』一本でした。
ブランドは3本の西部劇に出ました。時代順に1961年公開、唯一監督もした『片目のジャック』、66年の『シェラマドレの決斗』、そして76年のジャック・ニコルソンと共演した『ミズーリ・ブレイク』、どれも異色西部劇と言われていますが、人種差別を嫌い、『ゴッドファーザー』でのアカデミー賞主演男優賞受賞式もボイコットして、友人のネイティブ・アメリカンの女性に代読で長年ハリウッドが先住民に対して行ってきたことを訴えるような人ですから、当然どの作品も白人VS先住民という図式には程遠いものばかりです。まず『片目のジャック』はスタンリー・キューブリックと意気投合し、一緒に映画を作ろうということで企画されたものですが、キューブリックは『突撃』『スパルタカス』の血気盛んな頃。お互い言いたいことは言うタイプで、いざ企画に入ると意見は対立するし、キューブリックはハリウッドがイヤになり始めていた時ということもあり、結局物別れに終わり、ブランドが演出をしたいわくつきの映画です。あまり西部劇に登場しない海が出てきます。この作品は著作権の申請が適切にされなかったた為海賊盤が横行してしまいました。
『ミズーリ・ブレイク』の監督はアーサー・ペンで、二大俳優共演、ブランドは凄腕のガンマン、ニコルソンは敵対する馬泥棒のリーダー、これで面白くないはずがないのに、よくある「すごいやつばかり集めたからといって成功するとは限らない」という感じ。
そして『シェラマドレの決斗』ですが、もちろん相手は先住民ではありません。こちらがわたしの書いたあらすじです。
1870年メキシコ国境近くの町オホ・プリエト。戦いに疲れたマテオ(M・ブランド)は、名馬アパルーサを種馬にして牧場を開くために生まれ故郷へ戻ろうとしていた。ところが立ち寄った村で、美しい女トリニ(A・カマー)に馬を奪われそうになった。彼女はこのあたり一帯を牛耳るメディナ家の頭領チュイ(J・サクソン)の情婦で逃亡を企てたのだった。しかしチュイの部下に捕まって失敗、チュイは面目を保つため、馬を買うのにトリニに試乗させたのだと嘘をついた。そして強引にマテオから買おうとするが、マテオは売る気はなくチュイの脅しにも乗らずに生家に向かった。怒ったチュイはマテオの生家を襲い、馬を奪った挙句、マテオを屈辱的に痛めつけた。傷の癒えたマテオは馬を奪回するべく、単身チュイのもとへ向かうが、彼は軍隊のような部下を持っていた。チュイの根城に潜り込んだマテオはトリニの部屋に忍び込み、彼女を使って馬を取り返そうとするが、待ち構えていたチュイたちに捕まってしまう。
凝った構図によるショットの数々など、西部劇にしては斬新かつ創意に富んだ作りです。ブランドとジョン・サクソンがテーブルの両端にさそりを結び付けた危険な仕掛けで腕相撲をやる場面が印象的でスリリングでした。エキゾチックなヒロイン、アンジャネット・カマーも美しかったです。
ちなみにこの映画のロケ地はユタ州セント・ジョージ、そう、例のジョン・ウェインがチンギス・ハンを演じた『征服者』撮影地の近く。それが原因かはわかりませんが、やはりブランドもまた晩年肝がんを患っていたのでした。
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