【短編小説】自殺する死刑囚
20xx年 死刑制度廃止
衝撃的なニュースは世間を騒がせた。
反対デモや署名活動などが行われたが、強硬採決された。
世間を騒がせた法案で、犯罪率が増加するとみられたが、犯罪率は減少した。
特に再犯率が。
しかし、世間の不安は拭いきれずにいた。
ヨシヒト「わー遅刻だ。遅刻ー」
ヨシヒトの妻「朝ごはんはちゃんと食べてよ。」
ヨシヒト「わかってるよ。」
ヨシヒトはテーブルについて朝食を食べる。
ヨシヒトの妻「また、コメンテーターが話しているわ。」
ヨシヒトの妻は、テレビを見ながら、口を開く。
ヨシヒト「あぁ、死刑制度廃止のニュース?」
ヨシヒトの妻「そう、怖いわー。死刑制度廃止したら、犯罪者だらけになりそうで。」
ヨシヒト「でも、犯罪率は下がってるんでしょ?」
ヨシヒトの妻「わからないじゃない!実際は!」
ヨシヒト「あっ!もういかないと!」
ヨシヒトの妻「もう!ちゃんと聞いている!」
ヨシヒト「聞いているよ。じゃあ行ってくるよ。」
ヨシヒトの妻「うん、気をつけてね!特に犯罪者に!」
ヨシヒト「犯罪者なんかそうそういないよ、行ってくる。」
ヨシヒトは玄関の扉を開ける。
扉を開けた腕には火傷の跡がある。
私はヨシヒト。郊外に住む、ごく公務員だ。
さっきの妻の話。死刑制度は大丈夫だと言ったが、実は心配だ。
公務員である以上は、国が作った法律に従わなければいけない。
公僕の悲しいところだ。やはり犯罪者が増えるのでは?という懸念は拭いきれない。
自分の住んでいる街が平和であってほしいと願うばかりだ。
ヨシヒトはバスを待ちながらそんなようなことを考えていた。
バスが来て、ヨシヒトはバスに乗り込む。
半グレ「あー、ちょいちょい待って!」
半グレの男が、締まりかけたバスのドアに手を入れて、無理やり乗り込んだ。
半グレ「人が入ろうとしてんのに、なんで閉める?」
バスの運転手「申し訳ございません。」
半グレ「申し訳ございませんじゃないのよ。こっちは挟まって痛いのよ。腕。折れたかもしんないよ?」
バスの中が凍りつく。
ヨシヒトの足は震えていた。妻の不安が的中した。嵐が過ぎ去るのを待とうとした。
しかし、半グレの男が運転手に手を上げようとした。その時咄嗟に体が動いてしまった。
気づいたら、ヨシヒトは半グレの男の手を握っていた。
半グレ「なんだー!お前文句あるのかぁ?」
ヨシヒト「やめろ!みんな迷惑しているだろ?」
ヨシヒトは震えながら答える。
半グレの動きが止まった。半グレはヨシヒトの顔をマジマジと見ている。
半グレ「いやー、すみませんね。みなさんに迷惑かけちゃって」
手のひらを返したように、半グレが謝罪した。
ヨシヒトの震え声にビビったのか、絶対そんな事はない。
半グレは謝罪した後、ヨシヒトの後ろの席に座った。
半グレは、ヨシヒトをニヤニヤしながら見ている。
ヨシヒトは市役所に着くまで、半グレの視線を感じながらバスの座席に座っていた。
<市役所>
市役所のおばちゃん「ヨシヒト君!すごいじゃない!チンピラ?半グレ?を撃退したんですって!」
ヨシヒト「いや、撃退ってわけじゃ・・・なんで知ってるんですか?」
市役所のおばちゃん「さっき受付にきた女の人が言ってたのよ!すごいわね!なかなかいないわよ!そんな勇気のある人!」
ヨシヒト「いやー、ありがとうございます。」
ヨシヒトはおばちゃんとの会話を終えて、昼飯を続きを食べる。
ふと窓を見ると、朝の半グレの姿が、見えた。
ヨシヒトは驚き、窓から目を背けた。
恐る恐る、再び窓の外を見ると半グレがニヤニヤしながらこっちを見ているようだった。
不安になりながらヨシヒトは昼飯を食べる。妻の作った弁当の味がしない。粘土を食べているようだった。
<自宅・マンション>
ヨシヒト「ただいま。」
ヨシヒトの妻がバタバタと音を立てて玄関まで小走りする。
ヨシヒトの妻「おかえり!」
ヨシヒトの妻がヨシヒトに抱きつく。
ヨシヒト「うわ!どうしたの?」
ヨシヒトの妻「怖かった!さっき、マンションのエントランスに半グレっぽい人がニヤニヤしながらこっち見てて、めっちゃ怖かった!」
ヨシヒト「えっ?!気が付かなかった!そいつまだいる?」
ヨシヒトの足が再び震える。
ヨシヒトの妻「どうしたの?大丈夫?」
ヨシヒト「ちょっと行ってくる!」
ヨシヒトの妻「えっ!?」
ヨシヒトはマンションのエントランスに降りて、周りを見渡す。
エントランスを出て外を見回すと、半グレの男の姿が見えた。
半グレの男は、ニヤニヤしてこっちを見てる。
ヨシヒトは半グレの男に近づく。
ヨシヒトは半グレの男に向かって怒鳴ろうとするが。
半グレ「やっぱヨシヒトさんじゃないですかー!」
ヨシヒト「えっ!?」
半グレ「俺っすよ!タケトっす!」
ヨシヒト「誰だよ!お前!」
半グレ「えっ!?覚えてないんすか?何で地元離れたんすか?みんな寂しがってますよ!」
ヨシヒト「なんだよ、お前、、」
ヨシヒトは半グレの意外な反応に狼狽える。
半グレ「ほら、コレ!」
半グレはヨシヒトに腕を捲り、刺青を見せる。
半グレ「うちのチームの刺青っす!」
半グレはヨシヒトの腕を掴み、同じところに刺青がないか確認する。
ヨシヒト「なにすんだよ!?」
半グレ「アレ!?ヤケドしたんすか?」
ヨシヒト「そうだよ!学生時代の事故でヤケドしたんだよ!」
半グレ「なに言ってんすか?学校なんて行ってなかったじゃないですか?」
ヨシヒト「何言ってんだよ、、お前、、」
半グレ「まっいいか!ヨシヒトさん帰りましょう!今から地元に!」
半グレがヨシヒトを無理矢理連れて行く。
半グレ「てゆーか結婚したんすね!いつ出所したんすか?」
ヨシヒト「出所?」
<ヨシヒトの地元>
半グレA「ヨシヒトさん!久しぶりっすね?」
ヨシヒト「おお」
半グレに囲まれてヨシヒトは狼狽する。
半グレB「誰すっか?ヨシヒトさんって?」
なにも知らない半グレBが口を開く。
場が凍る。
半グレ「お前、ヤバいって、知らないのかよ、、お前殺されるぞ、」
半グレ「たかしさん病院送りになっただろ?あれヨシヒトさんだよ。鼻が陥没して元に戻らなくて顎より後ろになっちゃって、顎もガタガタになって固形物食えなくなったんだよ。」
半グレB「マジっすか、やばい、すみません。ヨシヒトさん。」
半グレ「ヨシヒトさんまた、JK輪姦しましょうよ!ヨシヒトさん半端ないすよね!あん時も!」
半グレA「マジやばかったよな!あん時ちょっと引いちゃったもん!ボコボコに殴って、最後絶対死んでたよ!」
半グレ「いや、コンクリに詰めた時、まだ生きてたよ!虫の息だったけど。」
ヨシヒト「えっ!?えっ!?」
半グレ「あん時の写真っすよ!」
半グレが女子高生をボコボコにしてレイプしている写真を見せる。
ヨシヒト「ウェー!」
その写真を見て吐く。
半グレ「マジでどうしちゃんたんですか?」
半グレA「てゆーかマサキさんと一緒に捕まったんじゃないですか?どうやって出てきたんですか?」
ヨシヒト「今日は帰る。気分が悪い。」
半グレ「マジスカ体調悪そうですもんね!」
半グレB「いいな、今度自分も輪姦したいです!」
<自宅・マンション>
ヨシヒト「…。」
ヨシヒトは自宅のマンションで蹲る。
妻「どうしたの?」
ヨシヒト「なんでもない。」
朝
妻「キャー!!」
ヨシヒトは自殺した。記憶にないが、あの写真を見て自責の念から自ら命を立った。
<法務省>
法務官A「元死刑囚 イチハラ ヨシヒトが自殺しました。」
法務官B「はい、了解。」
法務官A「それにしても、死刑制度廃止の裏にこんな仕組みがあったなんて知らなかったです。」
法務官A「うん。死刑囚の記憶を消して、完全な善人に仕立てる。善人になった死刑囚を事件とは別の地域に飛ばして、国が主催の慈善活動をさせる。」
法務官B「そう。万が一、自分が凶悪犯罪者って知っても、善人に仕立てたから、自責の念で大抵は自殺するからね。」
法務官B「日本はすぐに死刑を執行しないから、死刑囚の餌代だけでも金がかかるからね。」
法務官A「それにしても、記憶を消されたこともわかんなくなるんですね。」
法務官B「お前は昨日の晩、何食ったか覚えてる?」
法務官A「カレーです。」
法務官B「その3日前は?」
法務官A「えーっと、なんだっけ?」
法務官B「人間の記憶なんてそんなもん、全ての記憶を覚えてるわけではないよ。自分が意識してないだけで、そう思い込んでしまってるんだよ。お前だって、10年前の記憶を正しく再現できないだろ?」
法務官A「確かに」
法務官B「案外、俺たちも実は、死刑囚ってパターンがあるかもな!」
法務官A「まさかー!」
法務官B「なんてな!イチハラヨシヒトの処置済ませておけよ!マサキ!」
法務官A「はい」
法務官Aの腕に火傷の跡が。
<了>