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待草雪
2021年10月29日 21:58
あなたは、どんな命であろうとも”あなた”。46『次のニュースです。北東大陸で発生していた連続爆弾テロ殺人事件ですが、犯人は大陸を移動して、中央大陸でも犯行を重ねているとの情報が入りました。犠牲者は述べ千数百人に上っているとみられています。現場近くに住む人は不審人物に警戒して、もし見かけたら警察に連絡をーー』 ヒュウラは、黙々とテレビの画面を見ていた。『世界生物保護連合』3班・亜人課の支部
2021年10月20日 09:05
43 絹鼬族の青年は、顔面が蒼白していた。絶望感に顔が歪み、首まで伸びた白い髪が逆立つ。 自ら危機を招き入れたヒュウラは、全てを無視して天井を見上げている。机だった瓦礫の中に転がっている電動ミシンが脛に当たると、振り上げた足で強打して踏み潰した。 プラスチックの表面が割れ、中の鉄が砕ける音が響く。カーキグリーンの革靴に絡まった色取り取りの縫い糸と糸駒を見てから、再び顔を人間達の寄り集まる作
2021年10月12日 19:08
41『了解しました、部隊全員に伝えます。リーダー、”彼”は問題無いですか?』「ハッキリ言ってしまうと、ヒュウラは問題だらけだ。でも無事なのは確かだな。相変わらず連絡を一切してこないが、コレも任務が終わったら特訓して身に付けさせる」 通行禁止の紐を潜り、アスファルトの道路を歩いて行くデルタ・コルクラートは、道が途切れた先に広がっている自然の風景を眺める。背の低い草花が絨毯のように広がる原っぱ
2021年10月7日 20:21
39 割り削れて不安定になっている崖の上から離れていき、原っぱの中央で向かい合って立った2種の亜人は、双方無言で日の光と微風を体に浴びる。小さな花弁が吹き舞う平和な丘は静寂に包まれていたが、ヒュウラの首輪越しにデルタ・コルクラートが声を出すと、白髪の青年は目を釣り上げた。『ヒュウラ。ターゲットは保護したか?麻酔を使わずに話し合いで済むなら、その方が良いが』「ごめん。ちょっとだけ黙っててくれ
2021年10月4日 14:25
37 アスファルトの道路は程なくして途切れた。『行き止まり』と人間が使う世界共通語で書かれている縦看板を横切って、影は浅い崖を滑り降り、小さな森の中に入る。木々の間を駆け抜けてなだらかな丘を走り登っていくヒュウラは、腰を落として前のめりになった姿勢で、両手を後ろに伸ばして獣のような速さで疾走する。 顔に表情は何も浮かんでいない。黙々と走り続ける亜人の青年が付けている首輪から、デルタ・コルクラ