X 焚き火(続)
IX 焚き火(続)から続く
臆病であることは愛における本質であると私は言った。恋する心は最もひどい弱さをもたらすのと同時に最も並外れた勇気をもたらすと私は付け加えなければならない。
ただそうした対比を説明するのは私の役割ではない。
数時間前、ジャン-ルイ・ルシャールはエレーヌと離れ離れになると思うだけで弱気になっていた。そして今、彼女がそばにいて、震えながら、愛情と哀願の涙を浮かべた瞳でじっと彼を見つめている。それから彼女は、ジャン-ルイが自分に対して抱いているのと同じ気持ちを共有していると告白した。さらに彼女は、愛を獲得するためには駆け落ちするしかないと提案した。責務によって課された犠牲を捧げるという崇高な魂が彼の中に宿り、ただその誠実さによって望みのない幸福を拒む力を彼は得ることができた。
それから彼は今、考えなければならないことは一つしかないと断言した。私の見解では、非常事態のせいで彼が嘘という方便を使わざるを得なかったと明らかにしておくのが公正だろう。すなわち、このような異常な状況において守るべき責務を恋人に理解させ、自分が模範を示して彼女に諦めるように納得させ、そして何よりも彼女を母親のもとにすぐに戻さなければならなかった。
エレーヌはそうした高潔な意見を受け入れられる女性であった。午前1時頃、彼らは蹄鉄工の家がある方角に一緒に向かった。
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