独学で東大(理系)に受かるためにお世話になった参考図書〜数学編〜
ここでは、ある程度の基礎ができている高校生(偏差値60前後)が、そこから先、独学を進めていくことで東大に受かるくらいの(言い換えれば、国内の大学の入試であれば、どこであれ突破できるくらいの)受験力をつけるまでの過程で、お世話になった参考図書を紹介していこうと思います。
いつもみたく長い記事になってしまうかと思いますので冒頭にてまとめておこうと思います。
参考書のまとめ・リンク
まずはじめに「数の悪魔」を読み、数学の世界に興味を持つ。
「黄色チャート(IAⅡBⅢ)」を教科書代わりに使用し、全体を網羅する。
「一対一対応の演習(IAⅡBⅢ)」を完璧に仕上げ、入試数学を解くために必要な道具を完備する。
「良問プラチカ(IAⅡBⅢ)」で標準問題クラスの問題を確実に解けるよう訓練する。
ここまでで標準問題は解けるようになるはずです。
さらにその先に進むなら(つまり、数学でアドバンテージを稼ぎたいなら)以下がおすすめです。
「微積分/基礎の極意」
冒頭の計算練習だけでも「計算力の不足により解けない微積分の問題」はほぼ無くなる。
タイトルは「基礎」だが、この問題集をこなせば、応用問題も軽々と解けるようになる。
「やさしい理系数学」
ちっともやさしくない問題集。
「入試数学の掌握」
狂ったように数学ができる人たちの頭の中をちょっとばかし覗くことができ、参考にすることができる。「総論編」、「各論錬磨編」、「各論実践編」の三冊に分かれているが、その”分け方”が実にユニークかつ本質的で興味深い。「まえがき」だけでも立ち読みするのをオススメする。
「東大理系数学で一点でも多く取る方法」
タイトルの通り、東大の入試形式(記述)に特化したような参考書。
※できれば数学の勉強は「数学がとてもできる人」と一緒に進めた方がいい。
それぞれ個別に説明
ここからは、参考書一冊ずつ、オススメポイントを書いていこうと思います。
数の悪魔(導入として)
「数の悪魔」は是非とも読むことをお勧めします。(とくに入試を受ける予定のない方にもお勧めできます。)
この本は、日常感覚の延長線上の数学(例えば、足し引き算)と、日常感覚を越えた数学(累乗・平方根、順列・組み合わせ、無限・収束、、、などなど)との橋渡しをしてくれます。「10歳からみんなにおすすめ!」と銘打たれている通り、とても読みやすく、楽しく書かれています。私が初めてこの本に触れたのは11歳の頃だったかと思いますが、高度な数学概念(多くの人がちんぷんかんぷんだと訴え始める)に対して、漠然としたイメージを抱けたように思います。そのイメージは、後に学んだ高度な数学の厳密な理解にとても役に立ってくれたと断言できます。そして何より、「数学は楽しんでやるものだ」という最も重要なメッセージを強く胸に刻んでくれます。即効性はないかもしれませんが、確信を持っておすすめできる本です。
黄チャート(入試数学の体系全体に目を通す。)
チャート式には様々なレベルのものがありますが、私が使用していたのは黄チャートでした。青チャートだと難し過ぎて進まず、白チャートだと、どうも二次試験で要求される水準には少し届かないないように思えます。無理なく進められて、かつ役に立つのは(私の場合は)黄色チャートでした。
この段階で重要なのは、「たとえ理解があやふやでも、演習問題が解けるようになったら良しとして先へ進む!」ということです。そして、とても長い時間がかかるとは思いますが、諦めず進み続けることです。全体を網羅するのに私は二年近くかかったかと思います。
一対一対応の演習(入試数学を解くために必要な道具を揃える。)
「一対一対応の演習」は、入試数学を解くために必要な「道具」を完備するのに向いています。タイトルの「一対一」とは、ある数学の概念と、その概念を用いた例題とが一対一に対応している、という意味で、その点でも数学体系全体を見渡すのにこれ以上効率の良い参考所兼問題集はあまりないだろうと思います。ただ、説明・記述が最小限に整理されているため、初学者にはあまり向かないかもしれません。あくまで、ある程度数学ができるようになってから手をつけた方がいいかと思います。そして、全体を網羅したあとは入試本番レベルの問題に挑戦してもいいだろうと思います。もし、解けない問題があったのなら、解けなかった理由を突き詰めていくことが重要です。必ず、「一対一対応の演習」の中に、何か欠けてしまっていたものがあると気づくことになると思います。(少なくとも私はそうでした。)
良問プラチカ(問題演習をして、道具を使い慣れる。)
「良問プラチカ」は、標準レベルの問題の演習に向いています。この問題集の良いところは、難し過ぎず、簡単過ぎず、また、解答に必要な要素があまりダブらないように選問されていることです。私は前回の記事に書きましたように、あまり問題演習をやらないまま入試を終えてしまったのですが、この問題集については、苦手分野の補修に大変役立ってくれていたと思います。
ここまでで、おおよそ標準問題を解くために必要な道具は揃うだろうと思います。この段階をクリアしたのなら、入試本番レベルの問題演習に入ってしまってもいいかもしれません。案外、見落とされがちなポイントですが、「標準問題を確実に解ける」というだけで、十分に「数学が得意」と言えるくらいの偏差値になるものです。少なくとも、センター試験?共通テスト?の中には、もはや解けない問題は無くなってしまっています。(つまり、一次試験の数学の問題を解くことは、ただの”単純作業”に思えるレベルになります。)
難問を解けるようになるための参考図書。(数学をより楽しむために)
ここから先は、東大の二次試験の数学で、さらに周囲と差をつけるための参考書・問題集について書いていこうと思います。ここから先に進むと、だんだんと数学の奥深さに触れていくことになります。それは、とても楽しい経験なのですが、あまりにも数学にのめり込みすぎて他の科目とのバランスが悪くなってしまう場合もあるので気を付ける必要があります。
微積分/基礎の極意(微積分に関しては無敵になれる。)
まず、数三まで終わっているのなら、一番初めに「微積分/基礎の極意」に手を付けることを勧めます。特に、一番最初の章「計算力のチェック」だけでも恐ろしく役に立ちます。その程度の計算力がないことには、先には進むな!というのが、どうもその章をもうけた著者の趣旨にようですが、本当に、そうした「基礎」がないことには先に進めないような問題集になっています。そして、この問題集をやり通した時、微積分の問題であれば、東大の二次試験であれ、解けない問題はほとんどなくなってしまっていると思います。
もう少し言い方を換えて強調しておきます。
数学の入試問題は、どうも「ひらめき」に頼った偶発的な性質があり、なかなか安定した成績を取れないものです。しかし、この参考書をやれば、「微積分の問題であれば確実に獲れる!」と自信を持つことができるようになります。そうした自信が心の余裕をもたらし、発想力が要求される応用問題で「ひらめく」ことができる確率を押し上げてくれるように思います。
やさしい理系数学(難問に遭遇しても動揺しない、、、笑)
続きまして、「やさしい理系数学」を紹介させていただきます。タイトルに似合わず、とても難易度の高い問題が並んだ問題集です。私はほとんど手をつけないまま終わってしまったのですが、数学を一番の得意科目としていた私の友人が取り組んでいたので一応、名前だけでも挙げさせて頂こうと思います。さらにその先に「ハイレベル理系数学」があるというのですから、数学の奥深さは(入試という領域ですら)計り知れません。
入試数学の掌握(楽しんで読めるハイレベルエッセイ本)
そして、「入試数学の掌握」
これは知る人ぞ知る名著で、中身はエッセイ調で書かれています。一般に、数学の参考書は解答に至るまでの”最短距離”しか示してくれませんが、この本は、著者が初めてその問題に遭遇した時のことを回想しながら、「えっちら・おっちら」と解答に至るまでの思考回路を語ってくれます。それが読んでいて実に楽しく、興味深いです。数学がべらぼうにできる人たちの頭の中では、そんな風に「数学的思考」とやらが進んでいるようです。言葉の響きからは想像もつきませんが、そうした「寄り道を楽しむような心のゆとり」を持ちながら、彼らは数学の問題に向き合っているようです。むしろ、彼らは解けない問題に出会うことを密かに望んでいるようにさえ思えます。
東大理系数学で1点でも多く取る方法(タイトルそのまま)
最後に、「東大理系数学で1点でも多く取る方法」という、タイトルそのままの参考書を紹介させていただきます。これはもう、タイトルそのままなのであまり補足説明は必要ないかもしれません。
東大の入試では、ほとんど何も書かれていないまっさらな答案用紙が渡されます。その紙に解答を自由に記述していくのですが、その書き方云々によっては、正解にたどり着いていたとしても減点されたり、あるいは正解に至らずとも部分加点してもらうことができる、という説が唱えられています。(本当のところは確かめようがありませんが。)
そうした観点から、問題の解き方や解答の書き方を説明してくれます。
おわりに(補足)
おわりに、(書くべきかどうか非常に迷いましたが)あることをことわっておこうと思います。
正直に申し上げまして、「数学」は受験科目の中で最も「独学」に向かない科目なのではないか、と私は思っています。かと言って、教室で一斉に受けるのも効率が悪いだろうと思います。
では、どんな勉強法が適しているか、といいますと、おそらく「対話形式」が最も向いているだろうと思います。
私の場合は、狂ったように数学ができる友人が一人いました。彼に質問をすると、彼は「私がどこまで分かっているのか」を丁寧に探りあてながら、手を替え品を替え、説明をしてくれました。三日三晩考えて、それでもわからなかった問題が、彼の手にかかればほんの数十分で解決することもよくありました。
数学は極めて複雑精緻で巨大な論理体系を成しています。その何処か一部分が欠けてしまっただけで、その先が全く理解できなくなってしまったりします。そこで理解できないなりに公式を暗記してなんとか乗り越えようとするのですが、それでは応用力が身に付かず、難関大で通用するレベルに達するのは至難の技です。
とは言え、独力でその複雑な体系の網の目を辿っていき、問題を解決するのはとても難しいことです。「どこまで分かっているのか」、「どこから分からなくなっているのか」を探り当てるだけでも非常に長い時間がかかってしまったりします。
その点、数学の民(たみ)の友達がいると、それがとても楽になります。彼らは数学の森の中に住み、その世界の地図を頭の中に持っています。彼らはとても案内上手です。
では、「どうすれば数学の民と友達になれるのか?」「そもそも、身近にそういう人がいるものだろうか?」と問われると、私は非常に困ります。私に数学の民の友達ができたのは、本当にラッキーな偶然だったと思うからです。そのことに関して私にアドバイスできることは非常に限られています。
ただ、確実に言えるのは、彼らは見かけによらず非常に開放的な民族である、ということです。数学の民はもの静かで、あまり表に出てくることはありません。外の世界に何かを求めずとも、内面の世界が十分に豊かだからです。彼らは、一見すると社交性が低いように思えるかもしれませんが、数学に興味を持つ人には心を開いてくれるものです。数学に興味を持ってくれる人が少ないからなのかもしれません。
「あまりに基本的なことを尋ねると、気を悪くするんじゃないか?」と心配する必要もありません。彼らはどんなに基礎的な質問に対しても、熱心に向き合ってくれるものです。それは「1+1=2」の証明に真剣に向き合っている姿からも明らかでしょう。彼らは数学について話すこと自体がとても好きなのです。
以上は、私が数学の民に対して持っている偏見で、一般には当てはまらないことなのかもしれませんが、私が彼らと友達になれたのは、上記のように数学に興味を持っていたからなのだろうと思います。参考になればありがたいです。