笛の音色、シャボン玉の色

「笛の音色とシャボン玉の色は同じ原理でできているよ」と彼は言った。
僕らは近所のスーパーに買い物に行く途中だった。僕はいつも紫いもを一本買っていたし、彼はシリアルを一袋買っていた。そして、帰り道でバリバリとかじりながら歩くのだった。

 我々は水田の近くを通った。いや、かつて、水田であった窪地と呼ぶべきかもしれない。水がためられ、その上に蓮の花が咲いていた。彼はシューマンの『蓮の花』を口笛で拭いていた。
 水の上にうっすらとガソリンの油膜が生じて、青黒く色づいて見えた。
 僕は「何で色がつく?」と彼に尋ねた。彼は口笛をやめ、「笛の音色と同じ」と言った。彼が何を言っているのか僕には分からなかった。

 歩きながら彼は、色のできる理由について説明してくれた。様々な波長の波の中から、特定の波長を持つものだけが増幅され、外に出てくるのだ、と。
 ホワイトノイズの中のある特定の波長の整数倍が笛の筒の長さに一致した時、その波長が増幅され、音色として認識される。油膜の色も同じで、様々な波長を持つ光の集まり——ホワイトな光——の中の、ある特定の波長の整数倍が油膜の厚さに一致した時、その波長が増幅されて、我々には色として認識されるのだ。

 それを聞いた時、僕は何かに胸を打たれた。それが何なのかは分からないけれど、彼の語る物理現象の中にある何かの波長が、僕の固有振動数と一致した。それから数日の間、僕は周期性を持つ様々な事象について、共鳴と色とを考えていた。

 そのことを、ふと、今朝、思い出した。朝日が山の間から現れ、フロントガラスを照らした。ほんの一瞬だけ、目の前が七色に光った。


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