森の中を
中高生の頃、森の中を一人で歩き回っていた。
テスト期間になるたびに、勉強のために図書館へと向かったのだけれど、大抵はやる気になれなくて、そのまま教材を置きっぱなしにして、窓から見えている山の中に分け入った。
道はスイッチバックのような形で、急な斜面に張り付くように登っていた。ケヤキ、楠、ナンキンハゼ、モチノキ、、、様々な木々が空間を埋め尽くすようにびっしりと生えていた。足元にはノシランがあった。
僕の最も好きな場所は、防空壕の入り口だった。その場所に佇んで、有刺鉄線に塞がれた入り口の向こうを、じーっと見つめた。その穴の中でいく人もの人たちが、かつて窒息して命を落としていた。地面には燻った木炭があり、マッチの燃えかすや、10年前の日付の新聞紙、コカコーラの空き缶なんかが散在していた。四人の白骨が身を寄せ合って眠っている。
そんな姿が目に浮かんだ。木々の根が柔らかな天井を突き破って降りてきて、白々しいカルシウムの塊に絡みつき、無機塩類を吸い上げて、ゆっくりと、ゆっくりと溶かしていく、、、無に帰る生の傍(かたわら)
そんな空想のふけるうちに、僕もまた、その一部になりたいような、不思議な誘惑に駆られたのだけれど、入り口は有刺鉄線で塞がれていた。
道は展望台へと繋がっていた。その広場の近くに、大きなちゃとらの雄猫が一匹いて、僕が通る時に尻尾で地面を打った。入場券でも検めるみたいな目つきだった。
展望台から街を眺めると、コンクリートの建造物がびっしりとひしめき合っているのが、とても、とても、気持ちの悪いものに思えた。その中でこれから生きていくのだと思って、立ったまま泣いた。寮に帰ってから「エイリアンの基地」というタイトルの小説を書き始めた。