過去の恋人たち

「過去の恋人たち」と一括りにして語ることを、彼女たちに謝るところからこの記事を書こうかと思う。僕が過去の恋人を思い返す時、その姿が他の恋人と重なり合うことが頻繁に起こる。もちろん、努力をすれば、僕はそれらを個々の人間に還元することができるのだけれど、放っておくと、彼女たちの姿は、「過去の恋人たち」というひとまとまりの心象に集約していく。

 それはやはり、僕が似通った人たちとばかり付き合ってきたからなのだろうか?とふと思う。彼女たちは、表面的にはそれほどの共通点を持ってはいなかったのだが、内面的には重要な共通項を持っていたようにも思う。そして現に僕は、そうした共通項を嗅ぎ当てて彼女たちに近づいたのだし、彼女たちもまた、そうした共通項があるからこそ、僕を受け入れてくれたのではないかと思う。

 彼女たちに共通するものはなんだったのか、と僕は考える。表面的な共通項としては、(元も子もないが)自由になるお金を多く持っていた、という点が挙げられる。僕は言い訳しようのないヒモだった。歳上の彼女たちの奢りで晩ご飯を食べたし、旅行にも行ったし、意味不明なエステも体験させてもらった。住む場所を与えてもらったことすらもある。

「その一方で、僕は何を差し出せている?」なんて、早朝に目が覚めて、河川敷なんかを散歩している時に思ったりもした。僕が差し出せているものといえばせいぜい、暗唱している詩歌の一節か、いくつかに割れた腹筋くらいのものだ。

 それでも、今から思い返してみると、僕は案外、彼女たちの求めているものを与えていたのかもしれない、なんて思うようにもなった。


 彼女たちは、社会的には成功している部類の人間だったけれど、一様に、どこかアンバランスな部分を抱えてもいた。そのアンバランスさに触れるには、「どうして僕なんかと付き合っている?」と尋ねさえすればよかった。

 ある人は、内面の混乱をさっと隠すように、
「ほっとけないから!」と素早く断定した。

「自分一人で生きていく力もないくせに、家出して来ちゃった迷い犬。おうちを見つけてあげなくちゃ!って思う」

(その頃、僕は実際に彼女の住むアパートに転がり込んでいた。)

また、ある人は考えることを拒否するように、「えー?かわいいから」と言った。(普段の彼女は、決してそんなことをしない)

別の人は、頬杖をつき、自分の世界の中にしばらく潜り込んだ後で、
「たぶん、私には献身的になれる対象が必要なんだと思う」と言った。
「本当なら、私は今頃きっと、子供の世話に大忙しだったんじゃないかな」

また別の人は、ベッドから身を起こした後、じっと僕を睨み付けて、
「とことん私に依存させて、よそでは生きられないようにしてやりたい」と言った。そう言う彼女自身が、ある意味においては僕に依存していた。


 結局のところ、僕と彼女たちの関わり合いは、短期的な共依存に過ぎなかったのかもしれないと思う。満員電車か何かで、ふとバランスを崩して隣の人の肩に寄りかかってしまったようなもの。

 こうした関係は長続きしなかったし、恋とは異なるものだったのかもしれない。(肉体関係は伴っていたけれど。)

 ……ごめんんさい、この記事にはオチが見つけられませんでした。

いいなと思ったら応援しよう!